Log in

何を変えれば、自然に実現するのか【topics】

OPtitle fukudome

今から2年前の2013年3月、あるコンピュータ雑誌で「iOSと日本社会に足りないもの」と題するコラムが始まった。モバイルとは単にモバイル機器を指し示すのではなく、モバイルという「いつでも、どこでも、だれでも」の状態を指し示す。その“モバイル”をビジネスの現場に活かすことにどれほどの可能性が秘められているのかについて、名だたる大手企業に対しコンサル・人材育成を提供している人物が提言するという、いわばビジネスモバイル論といえる内容だった。ここではそのコラムを今後チョイスして再掲していくわけだが、IT業界における2年といえば激動の進化。「そんな古いものを」と思われる輩もおられよう。しかし、選択肢が増え、導入障壁が低くなっただけで、モバイルは考えずに使えるほどまだ成熟してはいない。テクノロジーを活かすも殺すも結局は人である。変えるべきものは何なのかを今一度考える機会にしてもらえれば幸いだ。 

第16話 何を変えれば、自然に実現するのか 

iOSの活用について現場でコンサルティングをしていると、日本企業では突き詰めてモノが考えられていないと思うことが多い。例えば、先日も某社でiPadを導入する目的をヒアリングしたところ、「業務のペーパレス化を推進する」ことが目的および期待成果の1つだという答えが返ってきた。某社では、PCを全社員に配付する際も、グループウェアなど他のシステムを導入する際も、これまで度々「ペーパレス化を推進する」という目標を掲げてきたので、今回もおそらく紙が減ることはないと私は推測している。理由はシンプルだ。何のためにペーパレス化を進めたいのか、どうやったら本当にペーパレス化が実現できるのか、突き詰めて考えていないからである。今回はペーパレス化の例を参考に、「突き詰めて考える」というのが何を意味するのかを整理してみたい。

まずは、事実に基づいて目的・目標の妥当性が考えられているのか。ペーパレス化はより大きな目的や目標を達成するための手段のはずだ。例えば、低コストな業務オペレーションにしたいとか、スピーディーに情報が伝達されるようにしたいなどの手段の1つになるのがペーパレス化だ。しかしながら、某社ではiPadの導入とセットで、ペーパレス会議ソリューション製品を採用したことから、「雰囲気で」ペーパレス化を推進するというお題目を掲げたのである。事実に基づく深い思考や分析なしに、雰囲気で判断するというのをいまだに国を挙げてやっているのが日本社会の現実。「円安に誘導しても輸出は増えなかった。なぜなら、すでに製造業は生産拠点を海外に移していたから」という話を聞いていると背筋が寒くなる。政府レベルでも事実に基づいた意思決定をしていないことの証明だからである。

雰囲気で判断や意思決定がなされる組織で迷惑をこうむるのはその末端にいる構成員だ。もし、ペーパレス化を実現したいのならば、きちんと「社内における紙の印刷費・保管費・郵送費・差し替えのための人件費が現状○円かかっているので、これを△円にするために紙の量を×%削減する」というような事実に基づいたストーリーを組み立てなければならない。

DSC 0084

次に、失敗に対する「反省/振り返り」が徹底されているのか。某社では明らかにこれまでペーパレス化に失敗している。なぜ、PCを導入したときなどにペーパレス化できなかったのかを振り返ってみる必要があるはずだ。日本の社会では失敗に対する責任を辞職や異動という“形式”で取ることが多いが、私は辞職や異動が責任を果たすことにはまったくつながらないと思う。それよりは、失敗の原因がどこにあったかをきちんと追究し、二度と同じ失敗を繰り返さないよう組織や社会の未来を担う人たちに教え込むことが責任を果たすことなのではないだろうか。関係者は逃げずに、自分たちのやってきたことと真摯に向き合い、自分のプライドを犠牲にしてでも「何が想定と違ったのか」を淡々と明確にしていくことが進歩をもたらすのである。 

最後に、施策を現場で実行する人の立場をイメージして、何が変革のプラス要因・マイナス要因になるかを想像できているのか。例えば、従来のやり方への慣れは変革に対するマイナス要因である。最初はiPadを使っていても、時間が経つと紙を使った業務に逆戻りすることは自然なことだと率直に認めるところから出発しなければならない。大半の人にとってiPadの画面上で確認するよりも紙で確認するほうが慣れており、使いやすいのである。このような「当たり前」を認めたうえで、環境を変えなければならない。プリンタや複合機など、紙で業務を回すことを前提にして、便利に整備された環境を変えることなく、単にiPadを入れて「iPadで会議をやろう!紙をなくせ!」という声掛けをしても、前進するわけはない。極端な話、印刷できる機械をすべてなくしてしまえば、PCを使おうがiPadを使おうが、ペーパレス化は自然に実現するのである。

突き詰めて考えられたiOSの導入プロジェクトは成功しているケースが多い。やはり、突き詰めて考える習慣は、社会や組織を強くするのだ。 

初出:Mac Fan 2014年11月号

iOSの導入で失敗しないために「突き詰めて考える」べき3項目
・事実に基づいて目的・目標の妥当性が考えられているか
・失敗に対する「反省/振り返り」が徹底されているか
・施策を現場で実行する人の立場を考え、何がプラス要因・マイナス要因になるかイメージできているか

 

執筆者

福留大士/1976年鹿児島県生まれ。株式会社チェンジ代表取締役COO。アクセンチュア勤務後、27歳で独立・開業し、大手企業に対するスマートデバイス利活用、BYODなどのコンサルティングや人材育成のサービスを提供している。