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次のビジョンは、誰が創り出すのか?【opinions】

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今から2年前の2013年3月、あるコンピュータ雑誌で「iOSと日本社会に足りないもの」と題するコラムが始まった。モバイルとは単にモバイル機器を指し示すのではなく、モバイルという「いつでも、どこでも、だれでも」の状態を指し示す。その“モバイル”をビジネスの現場に活かすことにどれほどの可能性が秘められているのかについて、名だたる大手企業に対しコンサル・人材育成を提供している人物が提言するという、いわばビジネスモバイル論といえる内容だった。ここではそのコラムを今後チョイスして再掲していくわけだが、IT業界における2年といえば激動の進化。「そんな古いものを」と思われる輩もおられよう。しかし、選択肢が増え、導入障壁が低くなっただけで、モバイルは考えずに使えるほどまだ成熟してはいない。テクノロジーを活かすも殺すも結局は人である。変えるべきものは何なのかを今一度考える機会にしてもらえれば幸いだ。

第17話 次のビジョンは、誰が創り出すのか?

 

最近、世の中に変化をもたらすのはリーダーのビジョンに対する人々の共感だということを痛切に感じる。今回はビジョンというものをどう捉えるべきか、iOSの導入現場と日本社会の両面で考えてみたい。

まず、iOSの導入現場では、ソフトバンク孫正義社長のビジョンが市場全体に浸透している様子を体感できる。これまで孫社長はiOSについて「ほぼ毎日PCに触れていたこれまでのライフスタイルでは考えられないことだが、(iPhone/iPadを利用するようになって)はるかに快適になり、生産性が上がった。これが多くの人にとって一般的になる時代が必ず来る」「iPhoneとiPadの両方を携帯する“2本差し”が現代の武士たるビジネスパーソンのたしなみだ」などのわかりやすいビジョンを語り、市場を牽引してきた。特に、ソフトバンク社内における営業生産性の向上を業績の裏づけを基に具体的に語り、ユーザにとってのiOSの魅力をアピールしてきたため、製薬業界のMRに代表される営業組織に急速に浸透してきたのは事実である。

一方、日本の社会でも同様のことがいえる。政府は今秋(2014年秋当時)の国会で、地方の人口減少に歯止めをかけ、活性化のための「地方創生」関連法案を提出する方針だが、いまいち日本の地方をどうしたいのかというビジョンが見えてこない。これに比べて1970年代初頭に田中角栄氏によって提唱された「日本列島改造論」というビジョンは実現したいことが鮮明であり、今なお日本はこのビジョンに沿って運営されているともいえる。このビジョンは日本列島を高速道路・新幹線・連絡橋などの高速交通網で結び、地方の工業化を促進し、過疎・過密の問題と公害の問題を同時に解決するといった狙いを明確にした。いまだに地方では公共事業を中心とした土木・建設業が雇用創造の大きな割合を占めている事実があり、土木・建設業界にとって代わる新しい産業を地方で創造するのは至難の業であることを実感する。

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強烈なリーダーシップを持った人によるビジョンは世の中の現実を変えるパワーを持っている。しかし、我々が考えなければならないのは、「ビジョンは本当に一握りのリーダーのものか」ということである。環境変化が激しく、価値観が多様化している中で、ビジョンの賞味期限は早い。誰かがいったビジョンに皆がすがることができるほど、今の世の中はシンプルではない。また、インターネットを介して大量の情報にアクセスできるため、いろいろなものの見方があるという面もある。これからは画一的なビジョンではなく、多様なビジョンを持つことが重要なのではないかと私は考える。次のビジョンは我々一人一人が創り出さなければならない。どこかのカリスマがそのうち今後の社会や組織の未来像をわかりやすい言葉で説明してくれるだろう、と思うのは自由だが、もはや幻想である。

iOSでいえば「自分たちの業務をこう変える」というビジョンを個々のユーザが語るようになってほしい。あらゆる業界のあらゆる職種の人がiOSを用いて「ありたいワークスタイル」を語るのだ。例えば、鉄道会社の保守をしている若者が語るiPadのビジョンと孫社長が語るiPadのビジョンの両方があってもよいのであり、ここに優劣はない。それぞれが各々の領分で好きな夢を描くことができるのが理想的である。

日本の社会でいえば、それぞれの地方や地域が「自分たちの町・村はこうありたい」ということを宣言することが出発点なのではないだろうか。先日、金沢を訪れる機会があったのだが、すでにこのような動きが始まっているのを感じた。面白いコトを起こしそうなクリエイティブな人たちが続々と金沢に集まってきているのだ。地方創生における政府の役割は、全国津々浦々に通じるビジョンを作ることではなく、地方で湧き起ってくるムーブメントを邪魔しないことなのではないだろうか。

次のビジョンを創り出すために必要なこと
・誰かが考えてくれるのを待たない
・個々で自分たちの業務をこう変えるというビジョンがある
・それぞれが各領域で好きな夢を描くことができる

 

執筆者

福留大士/1976年鹿児島県生まれ。株式会社チェンジ代表取締役COO。アクセンチュア勤務後、27歳で独立・開業し、大手企業に対するスマートデバイス利活用、BYODなどのコンサルティングや人材育成のサービスを提供している。