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考えずに使えるほど成熟してはいない。なら、どうする?【opinions】

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今から2年前の2013年3月、あるコンピュータ雑誌で「iOSと日本社会に足りないもの」と題するコラムが始まった。モバイルとは単にモバイル機器を指し示すのではなく、モバイルという「いつでも、どこでも、だれでも」の状態を指し示す。その“モバイル”をビジネスの現場に活かすことにどれほどの可能性が秘められているのかについて、名だたる大手企業に対しコンサル・人材育成を提供している人物が提言するという、いわばビジネスモバイル論といえる内容だった。ここではそのコラムを今後チョイスして再掲していくわけだが、IT業界における2年といえば激動の進化。「そんな古いものを」と思われる輩もおられよう。しかし、選択肢が増え、導入障壁が低くなっただけで、モバイルは考えずに使えるほどまだ成熟してはいない。テクノロジーを活かすも殺すも結局は人である。変えるべきものは何なのかを今一度考える機会にしてもらえれば幸いだ。

考えずに使えるほど成熟してはいない。なら、どうする?

iOS導入の現場で頻繁に聞く意見。

「他社の成功事例を教えてもらえれば真似します。そうすれば効率よく導入を成功に導くことができますよね」

成功事例に学ぶというのは非常に重要であり、国内外の企業の先進的な事例にヒントを得て、自社の活用方針をきちんと定めることは成功のための出発点ともいえる。ただ、実際には他社の事例をそのままコピーして成功した事例を私は知らない。大手企業を中心に100社以上は導入事例を見てきたが、ほぼ皆無といってもいい。

なぜ、成功した事例のコピーが必ずしも成功をもたらすわけではないのか?

理由の1つに「前提条件や環境の違い」が挙げられる。つまり、iOSを導入する際、ビジネス自体の戦略や業務オペレーション、これまで利用してきたITインフラ、利用者のIT機器やソフトウェアに対する習熟度などがまったく違うのである。他社での成功パターンを自社に当てはめてみても、あまりに前提が違いすぎて成果を生み出すことができないという構図だ。特に決定的な要因が「文化・行動様式の違い」である。

iOSデバイス導入と活用に成功している会社はたいていの場合、ビジネスそのものがうまくいっていることが多い。背景には、新しいテクノロジーの活用に挑戦する社風であったり、常に工夫を重ねる文化であったり、お客様にとっての利便性を徹底的に考え抜く習慣といった一朝一夕には真似できないものがあるだ。表層的なものを真似したとしても、根底に流れる組織としての文化や行動様式にまで踏み込まなければ同じような果実は期待し得ない。

典型的な例としては「セキュリティだけ担保したうえで、iPad/iPhoneをそのまま入れて自由に使わせる」というものだ。成功している会社の利用者はあらゆる試行・実験を繰り返し、いろいろな用途を考え出し、App Storeで公開されているアプリに関する感度も高い。一方で、あまり活用が進んでいない会社では、「業務には使えない」「PCがあれば十分」といったいい訳が先行してしまい、せっかくの投資が水の泡となってしまうのである。

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2つ目の理由には「考えずに使えるほど、技術として成熟していない」が挙げられる。例えば、社用車を購入するときに用途を考え抜く必要はまったくない。お客様先などへの訪問や移動に利用することは明らかだ。一方、iOSの導入はまだそのレベルに到達しておらず、自分の頭で目的や用途を考え抜かなければならないのである。他社が導入したやり方をコピーしても、自分の頭でいったん考え抜いたものではないため、なかなか定着化しないし、効果も出ない。つまり、未だに利用すること自体に創造性が求められるのであり、自動車やその他のエレクトロニクス製品のようにユーザに考えさせることなく利用してもらうような成熟度には達していない。成熟度の低い技術を活用する鍵は「試行錯誤」にある。さまざまなアイデアを元に、まずやってみて、うまくいかなかったら軌道修正を繰り返すことが成功への近道だ。つまり、日本企業が毛嫌いする「(いったん)失敗するリスク」を取らなければ、「成功のリターン」はないのである。

日本は明治以降の近代化の中で、欧米の真似をすることに成功してきたといわれている。しかし、単なるモノマネではなく、日本の文化や風土にマッチした技術や制度を欧米から取り込むことで、歴史上まれにみるスピードで発展を遂げてきた。社会も企業も深いレベルで自己を知り、自分に合った最適な技術の活用を試行錯誤してはじめて成功に近づくことができるのではないだろうか。

初出:Mac Fan 2015年1月号

成功した事例のコピー導入が失敗する理由
・前提条件や環境が違うのに無理矢理導入し、iOSを自社の文化や行動様式に合わせることができないから
・他社で成功したやり方でも、自分で考え抜いた使い方ではないため、定着化しないから

執筆者

福留大士/1976年鹿児島県生まれ。株式会社チェンジ代表取締役COO。アクセンチュア勤務後、27歳で独立・開業し、大手企業に対するスマートデバイス利活用、BYODなどのコンサルティングや人材育成のサービスを提供している。