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1台2役になっても1人2役に変わりなし。何が為のIT?【opinions】

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今から2年前の2013年3月、あるコンピュータ雑誌で「iOSと日本社会に足りないもの」と題するコラムが始まった。モバイルとは単にモバイル機器を指し示すのではなく、モバイルという「いつでも、どこでも、だれでも」の状態を指し示す。その“モバイル”をビジネスの現場に活かすことにどれほどの可能性が秘められているのかについて、名だたる大手企業に対しコンサル・人材育成を提供している人物が提言するという、いわばビジネスモバイル論といえる内容だった。ここではそのコラムを今後チョイスして再掲していくわけだが、IT業界における2年といえば激動の進化。「そんな古いものを」と思われる輩もおられよう。しかし、選択肢が増え、導入障壁が低くなっただけで、モバイルは考えずに使えるほどまだ成熟してはいない。テクノロジーを活かすも殺すも結局は人である。変えるべきものは何なのかを今一度考える機会にしてもらえれば幸いだ。

第20話 1台2役になっても1人2役に変わりなし。何が為のIT?

市場調査会社IDCが公表したタブレット端末市場に関する最新レポートによると、2014年10~12月における世界中での出荷台数は7610万台で、前年と比べ3.2%減少した。世界のタブレット端末市場は、アップルが「iPad」の初代機を市場投入した2010年以降、一貫して成長していたが、今回初めて前年実績を下回ったという。

国内における現場感覚としても、タブレットの法人向け市場では変化のタイミングが到来していると感じる。iPadが最初に社内に導入されたときの熱狂から醒め、冷静に活用効果についての検証をしたうえで、次の段階に移ろうとしているのである。例えば、某製薬会社では営業マンに配付していたiPadをウィンドウズ・タブレットにリプレースし、これまでノートPCとiPadの2台持ちになっていた事態を解消するといった動きに出ている。つまり、iPadを導入してから数年間、その製薬会社の営業マンはノートPCを用いて業務システムへの入力、書類の作成やメールのやりとりに対応するという従来の働き方を継続しつつ、プレゼンテーション用にはiPadを活用するという働き方をしてきたのだ。

私見ではあるが、ほとんどの会社は「現状すでに出来上がった仕組みをなくすのが苦手」である。つまり、現状を否定することなく、新しい取り組みをどんどん今の仕事に追加していくことを好む。もしかしたら、この製薬会社では、例えばソフトバンクがそうであったように、書類の作成業務やシステムへの入力業務を「営業管理のような間接部門に集約する」ことによって、iPadで営業マンのすべての業務が完結するような仕組みを作っていれば、今でもiPadの活用を継続していたかもしれない。

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物事がうまくいかないときのパターンにはいろいろあるが、間違いなくどれにも当てはまるのは、「現状から出発してしまって、結局さまざまな制約やしがらみに負けてしまう」ことだ。明治維新を先導した人材を育てたことで知られる吉田松陰は、「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、 計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし」といった。成功の出発点は、夢を描き、理想を論じることであり、現実を踏まえることではない、と私は解釈している。iPadを導入した会社で大きな導入効果が創出され、成功しているといわれる会社には、間違いなくユーザの共感を生む「夢」がある。また、どのように物事を見るかも重要だ。業務の効率化を狙った施策を、「残業時間の短縮によってコスト削減する!」と表現するか、「社員の仕事を楽にして、家族と過ごせる時間を増やそう!」と表現するかで成否は決まる。

日本の社会全体に目を向けても同じことがいえるだろう。今、まさに議論の始まった農業・医療・エネルギーなどの岩盤規制をどう改革していくかについて、単なるルールや組織の話だけに終始していては失敗に終わる可能性が高い。ある意味では、今の狙いは経済成長のための規制改革なので、夢=カネなのかもしれないが、規制改革がお金を生み出すには時間がかかる。海外をみても、レーガン時代の規制改革はクリントン時代に、サッチャー時代の施策はブレア時代に、10-15年の我慢を経て花開いたのである。このような長期間の我慢ができるようにするためにも、いつか必ず実現したい夢が求められるのだ。ミクロでもマクロでも、やはり人の夢が物事を前に進めるということを心に刻み、毎日の仕事に取り組もうと思う。

初出:Mac Fan 2015年4月号

執筆者

福留大士/1976年鹿児島県生まれ。株式会社チェンジ代表取締役COO。アクセンチュア勤務後、27歳で独立・開業し、大手企業に対するスマートデバイス利活用、BYODなどのコンサルティングや人材育成のサービスを提供している。