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現場の気づきに、気づけているか?【opinions】

5991629080 fec7b9cdfd oPhoto:Made In Japan by basrawii, CC BY-SA

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今から2年前の2013年3月、あるコンピュータ雑誌で「iOSと日本社会に足りないもの」と題するコラムが始まった。モバイルとは単にモバイル機器を指し示すのではなく、モバイルという「いつでも、どこでも、だれでも」の状態を指し示す。その“モバイル”をビジネスの現場に活かすことにどれほどの可能性が秘められているのかについて、名だたる大手企業に対しコンサル・人材育成を提供している人物が提言するという、いわばビジネスモバイル論といえる内容だった。ここではそのコラムを今後チョイスして再掲していくわけだが、IT業界における2年といえば激動の進化。「そんな古いものを」と思われる輩もおられよう。しかし、選択肢が増え、導入障壁が低くなっただけで、モバイルは考えずに使えるほどまだ成熟してはいない。テクノロジーを活かすも殺すも結局は人である。変えるべきものは何なのかを今一度考える機会にしてもらえれば幸いだ。

第21話 現場の気づきに、気づけているか?

常々、iOSをはじめとしたテクノロジーを上手に使いこなし、長期にわたる成長の可能性を感じる企業には、いろいろな共通点があると思っている。今回は、その1つである「遠心力と求心力のバランス」について書いてみたい。

まず、遠心力というのは「現場の強さ」といい換えてもよいかもしれない。つまり、現場がどれだけ自分たちの情報感度を高くして、自律的に思考・判断し、お客様への価値を最大化するかというのが遠心力というテーマである。

例えば、遠心力の効いている会社にヤマト運輸がある。同社における新規サービスは、現場の気づきを基にしている。近年だと、買物難民や孤独死のリスクを抱える高齢者を対象とした「まごころ宅急便」というサービスを開発し、基幹事業に育てようとしている。これは現場の配送担当者が、「荷物を届けたときに、体調の悪そうなおばあちゃんに一言かけてあげられれば、孤独死を防ぐことができたはず」という悲しい経験に基づいて企画されたサービスだ。顧客接点を預かる現場の声を聞き、きちんと事業を回している会社は着実な成長を遂げるのだ。iOS活用に当てはめていうと、現場の創意工夫を妨げず、自由に利用させる環境を整備するということである。というのも、我々は企業人であると同時に生活者でもあり、便利になったライフスタイルと不便なままのワークスタイルが共存していると、強烈な違和感を覚えるからである。現場を信じて、思い切って権限を委譲し、新たなビジネスや仕事の進め方を創り出すことを任せなければ、企業の成長はない。

一方、求心力というのは「本社の強さ」を意味する。これは本社が掲げるミッションやビジョンに共感し、組織としての結束力が高く、統制のとれた動きが可能である状態を指す。ただし、ここでいう本社とは「組織」ではなく「人」であることが大半である。つまり、創業者や中興の祖といわれる経営者がカリスマ性を発揮し、その人に対する尊敬や共感が求心力になる。

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例えば、故・盛田昭夫氏率いるソニーには求心力があったが、今ではその面影はない。カリスマを失った組織が求心力を持とうとすると、どうなるか? 本社スタッフがルールでがんじがらめにするのである。論理的には正しくても、無意味な印象が否めないルールが日々本社によって量産されるのは、こういった理由からである。iOSの活用でいえば、現場から尊敬されているトップが「お客様のために判断と行動のスピードを倍速にするためにiPhoneを活用せよ!」というルールを示すのと、「iPhoneを配付しますが、情報セキュリティ保護の観点から、カメラ機能は使用できません」というルールをIT部門のスタッフが示すのとでは、利用する側のやる気にどのような影響がもたらされるかは説明の必要がない。

組織や社会を活性化させるうえでは、「求心力も遠心力もバランスよくある状態」が望ましいが、日本では強烈なカリスマ性を持ったリーダーが少なくなったせいか、求心力が失われているように思う。会社でいうと離職率、政治でいうと低投票率などの数値がその証拠なのではないか。しかしながら、私は「遠心力」という観点では、ぎりぎりのところで日本の現場は強さを維持していると思う。前述の盛田氏は、ソニーが新卒採用を始めた頃、新入社員に向かって「とにかく自由にやれ! そして君たちの中で、1人でもよいから世の中を変えるような製品をつくってほしい」と訓示したという話を聞いたことがある。今の時代に求められているのは、無駄な求心力を凡人がつくろうとするのではなく、非凡な現場に思い切って任せるリーダーの胆力なのではないだろうか。  

初出:Mac Fan 2015年5月号

長期的に成長する企業になるために必要なこと
・現場の意見を聞き、きちんと事業をまわしていく
・経営者がカリスマ性を発揮し、尊敬や共感を集める
・思い切って現場に任せるリーダーの胆力

執筆者

福留大士/1976年鹿児島県生まれ。株式会社チェンジ代表取締役COO。アクセンチュア勤務後、27歳で独立・開業し、大手企業に対するスマートデバイス利活用、BYODなどのコンサルティングや人材育成のサービスを提供している。