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[集中連載]レギュレーションに翻弄されるモバイルPOS市場vol.1【opinions】

 

GMBAでは、Meetupイベントのテーマ同様、モバイルITにおけるテクノロジーの進化とレギュレーションの変化によって、どんなビジネスチャンスが生まれるのか、という視点にフォーカスを当てている。今回から始まる短期集中連載では、その視点をもって「モバイルPOS市場で今何が起きているのか?」について取り上げていく。
取材先はfjコンサルティング 代表取締役CEO瀬田陽介氏。カードセキュリティの認証機関などの代表取締役を経て、カード業界のコンサルタントとして活躍。カードビジネスの現状から複雑な技術的解説まで、カードについてのすべてを包括的にわかっている第一人者だ。カードセキュリティ関連のビジネスを展開しているNANAROQ株式会社でアドバイザーも務めている。

第1話 レギュレーションに翻弄されるモバイルPOS市場

 ©Mighty Travels/How many credit cards should I have?CC BY2.0

◆クレジットカード決済の4つの問題点

クレジットカードがたいへん便利な決済方式であることは、誰もが同意するだろう。消費者にとっては、財布に現金がいくら入っているかを気にせずに買い物ができるし、店舗側にとっては客層を広げることができる。しかし、現実には、すべての店舗がクレジットカードに対応しているわけではない。むしろ、小さなオーナーレストランなどでは、あえてクレジットカードの加盟店にならず、現金決済のみにしているところもある。クレジットカードのどこに問題があるのだろうか。

店舗側から見たクレジットカードの問題点は4つある。1つは決済手数料が高いこと。顧客がカード払いをすると、その内の数%がカード会社の手数料として徴収される。

「この手数料額は、以前は相対で決められるのが常識でした。カード会社から見てリスクの高い店舗に対しては手数料額も高くなります」と瀬田氏は解説する。

fjコンサルティング株式会社 代表取締役CEO瀬田陽介氏。カードセキュリティの認証機関などの代表取締役を経て、カード業界のコンサルタントとして活躍。カードビジネスの現状から複雑な技術的解説まで、カードについてのすべてを包括的にわかっている第一人者だ。カードセキュリティ関連のビジネスを展開しているNANAROQ株式会社でアドバイザーも務めている。

カード会社から見て信用度が低い店舗の場合、リスクを考えて手数料額は高めに設定されるのが一般的だった。店舗から見れば、それだけ利益が圧縮されることになる。

2つ目が、審査が厳しく、誰でも加盟店になれるというわけではないこと。審査条件はカード会社によって異なるが、実店舗のない自由業者の場合、ほとんどは審査が通らない。通った場合でも、高率の手数料設定を提示されることになる。

3つ目が導入費用が高額であること。加盟店はカード決済用端末、レシートプリンタ、通信設備などを導入しなければならない。これがだいたい8万円から10万円ほどかかっていた。個人商店にとってはなかなか頭の痛い出費になる。

4つ目の問題が入金サイクルだ。カード決済した売掛金は、2週間に1度、手数料を差し引いてカード会社から振り込まれる。仕入れを月単位で行っている販売店などはまだいいが、毎日仕入れをするレストランなどでは、カード決済に対応したことにより資金繰りが苦しくなってしまうなどということも起きていた。

以上が、クレジットカードが便利な決済方式であることはわかっているのに、加盟店がある程度の規模の実店舗に限定されていた理由だ。

◆電子マネーに苦戦するSquare

Twitterの創業者の一人・ジャック・ドーシーは友人のジェームズ・マッケルビーから、個人事業主にとってクレジットカードの決済システムが容易ではない悩みを聞いた。マッケルビーのガラス細工を2000ドルで譲ってくれとある女性に言われたものの、彼女はクレジットカードしか持っておらず、マッケルビーはカード決済ができる術を持っていなかった。この苦い経験が元になり、ドーシーはその問題解決を考えるようになり、2009年、2人はSquare(スクエア)を創業した。

Squareは当初、iPhoneを決済端末にしようとした。Dockコネクタに接続する小さなカード決済端末を開発し、インターネット経由でカード認証を行い、レシートはメールで送信する。これで店舗のカード決済導入コストは1000円程度と、格段に低くなった。しかし、2012年9月にAppleがDockコネクタを廃止して、Lightningコネクタに規格変更することを発表。Squareは、コネクタ規格に振り回されるリスクを避けるため、イヤフォンジャックに接続するカード決済端末を開発した。

「ちなみに、iPhone 7では、イヤフォンジャックもなくなるという話が出ていますので、おそらくSquareは、Bluetoothによる無線接続でカード決済ができる端末を考えているのではないでしょうか」

Squareにとってはいくつかの問題が今後も持ち上がるだろうが、原則的に個人であっても加盟店になれる、導入費用を極めて低く抑えられるというSquareは、現在米国でモバイルPOS市場を独占している。そして、2013年、Squareが日本にも上陸したことは記憶に新しい。

米国でモバイルPOS市場を開拓したSquare。ネットサービスに加入する気軽な感覚で、カード加盟店になれるサービスだ。三井住友カードと提携して、2013年5月から日本でもサービスを開始している。しかし、EMVへのレギュレーション変更に対応した決済端末は、日本ではまだ提供できていない。

「ただし、日本では苦戦を強いられています。日本ではすでに電子マネー、おサイフケータイによる電子決済がかなり普及しているためです」

少し前の話にはなるが、2010年の統計によると、日本のクレジットカード使用率は12%で、88%が現金決済ということになっていたので、Squareから見ると、市場は大きいように見えただろう。しかし、実際は少額の現金決済市場のかなりの部分が電子マネーに押さえられていて、Squareはこのような電子マネーと競合することになってしまったのだ。

この統計だけを見ると、日本は他国と比べてカード使用率が極端に低いようにみえる。少額の現金決済分をカード決済に取りこむビジネスモデルをもっているSquareにとっては、日本はブルーオーシャンに見えたのかもしれない。しかし、現金のうち、一定割合が電子マネー(とおサイフケータイ)に移行している。日本は特殊な市場だった。

そんな状況の中、国内のモバイルカード決済市場で成功を収めつつあるのが、2013年3月から始まった「楽天スマートペイ」だ。

「日本のモバイルPOS市場は、楽天スマートペイの一人勝ちと言ってもいい状況です。楽天が成功したのには、成功するだけの理由があります」

(第2話につづく)

執筆者

牧野武文/テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。IT関連本を中心に、「玩具」「ゲーム」「論語」「文学」など、幅広くさまざまなジャンルの本を執筆。著書「Macの知恵の実」「横井軍平ゲーム館」「大失言」「萌えで読み解く名作文学案内」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」など。