Log in

独自の業務用アプリを外注する矛盾【opinions】

本連載では、業務用アプリの独自開発を極力避けて、既製品を使うべきであることを幾度となく強調してきました。決して私が何か歪んだ考え方を持っているというわけではなく、既製品の開発元しかり、活用支援のコンサルタントしかり、現場近くでiPadを見て触って支援してこられた方々が皆さん口を揃えて仰る事実です。

独自に何かを開発するとしても、せいぜい既製品が用意するAPIやOS標準機能等を組み合わせて自社流に仕上げる程度に留めておくのが、悲劇の待つ「いばらの道」を避ける鉄則です(独自開発の悲劇についてはこちらを参照)。それでも、社内の政治的理由や自社ロゴ付きアイコンといったこだわりで、やむを得ず業務用アプリを独自開発しなければならないこともあるでしょう。そのような場合は必ず「内製」を検討すべきです。

Rawpixel/shutterstock

そもそも業務用アプリの位置付けは?

一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会が毎年発表する「企業IT動向調査」の2015年版によると、以前にも増してIT投資は変革(イノベーション)を求めて行われるようになっていることがわかります。

(出典:一般社団法人 日本情報システム・ユーザ協会「企業IT動向調査2015」)

ビジネスモデルか業務プロセスかはともかく、ITへの投資はイノベーションがミッションとされています。アプリは紛れもなく戦略的IT投資に分類され、なんらかの革新を期待して導入されるものなのは自明なことでしょう。Webサイトや給与システムなど、あって当然とされる部類のITではありません。企業にとって重要な次の戦略の一翼を担うものなのです。

そんな戦略的IT投資について、「既製品」を使うでもなく「内製」という選択肢でもなく、「外注」に頼る合理的理由は企業にとって皆無です。戦略的な企業内施策に必要とされるものは、スピードであり、低コストであり、PDCAサイクルのパフォーマンスです。外注はそれらをすべて満たせません。既製品はスピードメリットとコストメリットを享受でき、内製はPDCAサイクルを何度も好きなだけ回し続けられるメリットがあります。

合理性を追求する米国企業がIT投資の多くを「既製品」か「内製」としているのもそれが理由です。事実、「ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国」という記事によると、

米国商務省経済分析局の数字によると、2010年の米国民間企業におけるソフトウエア投資の内訳は、内製(自社開発)が37.3%、外注(他社委託)が34.2%、パッケージソフト購入が28.5%であった。
(日経ビジネスONLINEより)

とあるとおり、米国企業の選択は「既製品」と「内製」とで6割を超えているのです。これをiPadやiPhoneの世界で象徴しているのが、Apple社のサイトにある海外企業の導入事例集でしょう。戦略的な投資であるからこそ業務用アプリを内製している例が多く目立ちます。事業部門と情報システム部門が議論を繰り返して開発することが、戦略を具現化するのに一番合理的であることをわかっているのです。

対して日本企業は前述の記事によると約7割、先の企業IT動向調査の2014年度報告書によると約6割。昔から問題視されていますが、日本のIT投資は「外注」が大半を占めており、これを裏付けるように業務用の独自のアプリ開発について見聞きするのも、やはり外注に頼ろうとする姿勢が多いように思います

戦略的ツールの開発を他社に深く依存させる矛盾

戦略的な主力商品・サービスの「営業」をどこかの会社に丸投げするなど考えられないことです。ではなぜ、戦略的投資であるはずの独自アプリの「開発」を外注という形で人任せにできるのでしょうか。

開発過程でやりとりする手間に時間もコストもかかり、試行錯誤がやりにくく、バグがあってもすぐに直せない、ちょっとした機能改善要求が現場から上がってもすぐに反映することもできない、そんな状態に陥ってしまうSIer丸投げタイプの「外注」という手段は、アプリ開発にはあまり向いていません。

弊社はアプリ開発を100個以上お手伝いさせて頂いた経験があるからこそ断言できますが、アプリは100%例外なく、当初言っていたものと別物になります。特に業務アプリは、現場の業務改善を主な目的としていますから、実際に使ってもらって、現場の声を聞いて調整することを何度も繰り返すプロセスが必要です。旧来のような要件定義・仕様策定・外部設計・詳細設計・実装・内部テスト・外部テストというように、手戻りの前提なく進めて良いモノができるほど単純な世界ではありません。単に紙の帳票をデジタルに置き換えたシステムをつくるのとはわけが違うのです。業務アプリ開発は、完成を先に定義してゴール目指して直線的に進むのではなく、現場の理想形に徐々に近づけていく漸近的なプロジェクトでなければなりません。従来のいわゆるウォーターフォール型開発の進め方では「革新」はとてもおぼつかないでしょう。

「この画面では、○○もボタン1つで見れたほうがいいんだけど」

と現場の声が上がってきたなら即座に実装され、翌週には現場への最新バージョン配付が完了している...。ついでに現場のほうがもっと便利になるような微調整も入っている…。こんな調子で進められるのが「内製」の魅力です。

RFPを書いて、SIerと何度も打ち合わせをして、仕様をレビューして、開発を開始したのに半年の予定が1年かかって、なぜだか予算も倍増してしまって、思ったように現場に浸透もしていない、そんなアプリをつくってしまうことに時間的・金銭的コストをかけるぐらいなら、その時間とお金を「内製」体制の構築に費やすべきです。内部事情に精通したエンジニアが、現場の方とコミュニケーションを取りながらつくっていくほうが、絶対に、全体的にまた中長期的には安上がりになるのです。

どんな形でもいいので専属の開発部隊を持つべき

「既製品」を採用できないなら、安易に外注するのではなく、最後の最後まで「内製」を検討する方針を捨てないでいただきたいと思います。

そもそも業務用アプリはネイティブアプリである必要すらないことが大半です。よって、もし内部にWeb系の開発部隊がいるのなら、Webアプリとして開発することを検討してください。今ならWebでもカメラ撮影してアップロードすることすら可能ですし、ある程度ならオフラインにデータを保持することもできます。また、HTML5の「canvas」を駆使すれば手書きのインターフェイスをつくることだって可能です。専用のアイコンをHOME画面に置くことも、さもアプリのように全画面を使用することもできます。どうしてもネイティブアプリが必要なら、「Monaca」などのWeb系言語でネイティブアプリを開発する手段がありますから、これを使って内製を考えたほうがいいでしょう。新しく言語を覚える必要はありません。

もし開発部隊が内部にいないのなら、自社内に開発部門を置くことをぜひ真剣に検討してください。これはあまり日本企業がやりたがらないことですが、私はITが事業の根幹を支えるますます必要不可欠な存在になっていく今だからこそ一歩踏み出すべきと考えます。資金に余裕があるのなら、優秀なアプリ開発会社を今のうちに買収することも選択肢に入れるべきでしょう。ITを戦略的に駆使することで成長を画するのであれば、それぐらいの覚悟を持つべきだと考えます。

仮にエンジニアを自社に雇うのだとして、どんな人が良いのかわからないのであれば、開発経験と実績があって業務の課題を理解してくれそうな人物に、採用面接と開発部門新設を含むコンサルを依頼してもいいでしょう(弊社では実績がありますので、宜しければお問い合わせください)。それすら難しいのなら、紹介予定派遣から始めてみることも1つの選択肢です。

どうしても内部に抱えるのが難しいのであれば、優秀なフリーランサーや1人で会社をやっているエンジニア、あるいは小さな開発会社と月額/年額固定の専属契約を結ぶという方法もあります(弊社においては第1話でご紹介した漁業関連アプリがこのスタイルに近いです)。名の通ったSIerのほうが安心できるという言い分もあるでしょうし、口座開設の問題もあるでしょうし、万が一のことが心配なのもわかります。しかし、ITで本当に革新を起こしたいなら、無用な保身、無考察な過去の踏襲は避けるべきです。万が一のときの対応品質は企業規模には比例しません。または「納品のない受託開発」という画期的なスタイルで、終わりなき継続的開発を行ってくれる企業もありますので、研究してみてもいいかもしれません(「納品」をなくせばうまくいく)。

いろいろと列挙しましたが、いずれにしても、独自開発をするのなら専属の開発部隊は持つべきです。仮にやはり従来どおりに「外注」をするのだとしたら、納品されるアプリを教材として使用し、将来内製化することを念頭に入れて開発体制構築を同時に進めたほうがいいでしょう。業務用アプリを戦略的に利活用していくには、スピードもコストもさることながら、継続的改善を行うためにPDCAを回し続けることも重要だからです。それができないのなら、その覚悟が持てないのなら、独自に開発するということは考えず「既製品」を使うことに徹したほうが賢明です。

執筆者

大石裕一氏/1975年大阪生まれ。大阪府立大学工学部卒業後、ソフト開発会社にエンジニアとして入社。6回の転職でWindows/Mac/Linux/組み込み系、ネットワーク系の開発やマネージャ経験を経て、2006年株式会社フィードテイラーを設立。エンタープライズiOS分野を得意とし、安易な新規業務アプリ開発を否とする考えを持つ。自社で開発したクラウド型ファイル共有サービス「SYNCNEL」を海外含む約200社に提供中。