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意思決定と行動のスピードを速める処方箋【opinions】

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今から2年前の2013年3月、あるコンピュータ雑誌で「iOSと日本社会に足りないもの」と題するコラムが始まった。モバイルとは単にモバイル機器を指し示すのではなく、モバイルという「いつでも、どこでも、だれでも」の状態を指し示す。その“モバイル”をビジネスの現場に活かすことにどれほどの可能性が秘められているのかについて、名だたる大手企業に対しコンサル・人材育成を提供している人物が提言するという、いわばビジネスモバイル論といえる内容だった。ここではそのコラムを今後チョイスして再掲していくわけだが、IT業界における2年といえば激動の進化。「そんな古いものを」と思われる輩もおられよう。しかし、選択肢が増え、導入障壁が低くなっただけで、モバイルは考えずに使えるほどまだ成熟してはいない。テクノロジーを活かすも殺すも結局は人である。変えるべきものは何なのかを今一度考える機会にしてもらえれば幸いだ。

第24話 意思決定と行動のスピードを速める処方箋

先日、ある企業のモバイル担当者に、「MDMはどんな製品を導入していますか」と質問したところ、「それがまだ検証中でして…」という歯切れの悪い答えが返ってきた。この会社、日本を代表する大企業。意思決定に時間がかかるのは理解できるが、モバイル活用の一領域でしかないMDMの導入検討に1年以上かけるのはあまりに遅い。日本企業の意思決定の遅さについてはいろいろな学術研究や論考があるが、iOSの導入・活用という観点から今回はその原因を分析し処方箋を考えてみたい。 

1つは、なぜ意思決定が遅いのかという話。決定までのプロセスと体制の観点から解説する。まず、iOS導入・活用について決定のプロセスに問題がある場合が多い。いわゆる稟議の手続きやワークフローといった公式の手順は明確であり、それに従って物事が決まればよいのであるが、そう簡単に事は運ばない。つまり、会議などの公式の場ではなく、非公式の場で物事が決められるケースが多く、正式な意思決定プロセスに関与するはずのない人が横やりを入れてくるのだ。これは多くの企業で発生している。「事業部決裁で通るはずの投資が、IT部門による検証が不足しているという理由によって止められる」「CIO(Chief Information Officer)/IT部門長は承認しているものの、Androidの端末メーカーを顧客としている営業部長から反対意見が寄せられる」など、枚挙にいとまがない。

もちろん、意思決定に関与しない人たちも重要なステークホルダーとして認識し、適切な情報共有を行うことは必要だ。しかし、外野の意見で物事が進まないことが多すぎるのである。これはもはや、日本企業が誇っていた「根回し」文化の機能不全といってもよいのではないか。関係者に対する事前のコミュニケーション=根回しができていないから、十分な報告・連絡・相談なしに導入検討の企画などを突然発表し、反対にあうのである。

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次に体制の話。誰が意思決定するのか?が重要なポイントだが、これは企業のオーナーや創業者が意思決定すればスピーディーなのは間違いない。例えば、ソフトバンクグループの意思決定スピードの速さは、創業者のカリスマ性に負うところが大きい。しかし、大半の大企業は歴史ある組織であり、創業者が一人で物事をどんどん決めるスタイルというのは、あくまで例外的な現象だ。意思決定をスピーディにするうえで、強いリーダーが強烈な責任感でどんどん物事を進めればよいという論調も目にするが、あまり日本には馴染まないと思う。合議制で物事を決めることを基本としつつ、いかに意思決定の阻害要因を解消していくのかをきちんと考え抜くほうが日本らしいのではないだろうか。

私の観察では、建設的に物事を議論する風土が欠如していることが問題の根本原因なのではないかと思う。つまり、反対する人や組織は必ずなんらかの論理を持って反対しているわけで、反対意見に正面から向き合って、建設的に議論をしながら結論を出さなければならないにも関わらず、反対を受けたら一気に思考停止、検討が止まるケースがよく見受けられる。

ではどうすればよいのか? 意思決定がスピーディな会社から学ぶべきポイントは2つ。1つは「意思決定に期限を設ける」ことだ。意思決定の速い会社は、必ず「月末までに決めないといけないので、明後日までに提案と見積もりが欲しい」といった進め方をしている。つまり、そこまでに決まらなければお蔵入りなのである。もう1つは「短サイクルで見直すことを宣言する」こと。例えば、モバイルの製品やサービスは1、2年で契約を更新することが多いため、「いったん利用してみて、当社に合わなかったら/効果が出なかったら、変更することが前提」というスタンスで意思決定するのだ。後戻りできない意思決定に対して慎重になるのは十分理解できるため、きちんと方針変更の可能性があることを明言しておく。ここで重要なのは「上手くいくまでやり続ける覚悟」であり、失敗は成功に至る学習でしかないという姿勢を貫くことだ。

環境変化の激しい時代、意思決定と行動のスピードを速め、「Fail fast, Learn a lot(早めに失敗して、多くを学べ!)」といきたいところである。 

初出:Mac Fan 2015年7月号

執筆者

福留大士/1976年鹿児島県生まれ。株式会社チェンジ代表取締役COO。アクセンチュア勤務後、27歳で独立・開業し、大手企業に対するスマートデバイス利活用、BYODなどのコンサルティングや人材育成のサービスを提供している。