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意思決定のジレンマ【opinions】

01 f©Kentaro Ohno/新宿 CC BY2.0 A

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今から2年前の2013年3月、あるコンピュータ雑誌で「iOSと日本社会に足りないもの」と題するコラムが始まった。モバイルとは単にモバイル機器を指し示すのではなく、モバイルという「いつでも、どこでも、だれでも」の状態を指し示す。その“モバイル”をビジネスの現場に活かすことにどれほどの可能性が秘められているのかについて、名だたる大手企業に対しコンサル・人材育成を提供している人物が提言するという、いわばビジネスモバイル論といえる内容だった。ここではそのコラムを今後チョイスして再掲していくわけだが、IT業界における2年といえば激動の進化。「そんな古いものを」と思われる輩もおられよう。しかし、選択肢が増え、導入障壁が低くなっただけで、モバイルは考えずに使えるほどまだ成熟してはいない。テクノロジーを活かすも殺すも結局は人である。変えるべきものは何なのかを今一度考える機会にしてもらえれば幸いだ。

第26話 意志決定のジレンマ

モバイルデバイス導入目的の上位にランキングされるものとして、「意思決定のスピードアップ」がある。

例えば、モバイルコンピューティング推進コンソーシアムのスマートモバイル活用委員会が、1800を超える企業のモバイル推進担当者を対象に調査したときの結果でも、「情報共有の活性化」「業務プロセス改善」に次いで第3位の導入目的である。しかし、モバイルデバイスを導入したからといって、意思決定がスピードアップすることはほとんどない。スピードアップするのは、意思決定といったレベルの話ではなく、日々の業務上の簡単な判断である。

典型的なケースを挙げると、会議室ではその場で次の会議日程が調整できず、「自席に戻ってからPCを起ち上げ、グループウェアを参照して、メールで候補日を送って…」という手順を踏まなければならない現場がまだまだ多くの企業や役所で見受けられる。このようなプロセスはモバイルデバイスによって飛躍的にスピードが上がるものの、意思決定のスピードアップとはいえない。あくまで判断や調整といった類のレベルである。

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一方、社会全体に目を向けると、意思決定ができずに禍根を残すことがいかに多いか、暗澹たる気持ちになることが多い。最近では新国立競技場の建設である。本競技場の建設については、そもそもの意思決定に理解不能な点が多い。私は3つの点でおかしな意思決定だったと考えるのだが、これは日常、日本社会のあちこちで散見されるのではないだろうか。

まず、「誰が意思決定しているのか、責任の所在が不明確」である。JSC(日本スポーツ振興センター)は監督官庁である文部科学省が主体であると主張し、文部科学省はJSCが決めたと水掛け論をしている。「国立」である以上、組織委員会や東京都が意思決定しているわけではなく、予算の執行権限を持つ国の機関が意思決定しているはずである。文部科学大臣が、6月29日の調整委員会で、「総額2520億円、2019年5月までに完成」という政府方針が決定したことを報告したが、その2週間後の7月15日には首相が費用削減に向けた計画の見直しをするという方針に転換した。さらにその2日後の7月17日には白紙撤回とのこと。現政権としては、このような計画の骨子をつくったのは民主党政権であり、今の与党の責任ではないという論理。誰が責任を持って意思決定しているのかまったく釈然としないのである。

次に、このままではオリンピックの開催に競技場の建設が間に合わないから、仕方なく決めるという論調で、「なし崩し的な意思決定がなされた」こと。日本では、意思決定の理由として、いろいろと検討をしてみたが、そろそろ決めなければ最終期限に間に合わないため、仕方なく決めるというスタイルが目立つ。このような事態をもって「機が熟す」という表現を使う人もいるが、まったく議論を尽くしていない中での意思決定は未熟もよいところである。追い込まれた状態で、時間切れによって意思決定した場合、拙速になってしまうことは誰もが容易に想像できるのではないか。

最後に、「論理的に数字に基づく意思決定がなされない」こと。意思決定に基準がないといえばそれまでだが、とにかく数字に対する意識がいい加減なのである。今回、2520億円という数字が批判されているのは、過去5回分の開催都市のスタジアム建設費の合計を超えているといった金額の問題もあるが、それ以上に「内訳を誰も説明できない」のだ。このような感覚だと、GDPの2倍も借金を抱えている国が「すみません! 計算違いでデフォルト起こしてしまいました」と開き直ってしまう日が早晩来るのではないかと本気で心配になる。

最近の日本社会が抱える問題点の主な原因として、「意思決定が適切に行われていない」ことが非常に重要な意味を持っていると思う。失われた20年を取り戻し、未来に向けた動きをスタートさせるためには、何よりも「意思決定」が重要なのである。

初出:Mac Fan 2015年9月号

執筆者

福留大士/1976年鹿児島県生まれ。株式会社チェンジ代表取締役COO。アクセンチュア勤務後、27歳で独立・開業し、大手企業に対するスマートデバイス利活用、BYODなどのコンサルティングや人材育成のサービスを提供している。