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生産者と消費者は表裏一体【opinions】

top©tai11/Shutterstock

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今から2年前の2013年3月、あるコンピュータ雑誌で「iOSと日本社会に足りないもの」と題するコラムが始まった。モバイルとは単にモバイル機器を指し示すのではなく、モバイルという「いつでも、どこでも、だれでも」の状態を指し示す。その“モバイル”をビジネスの現場に活かすことにどれほどの可能性が秘められているのかについて、名だたる大手企業に対しコンサル・人材育成を提供している人物が提言するという、いわばビジネスモバイル論といえる内容だった。ここではそのコラムを今後チョイスして再掲していくわけだが、IT業界における2年といえば激動の進化。「そんな古いものを」と思われる輩もおられよう。しかし、選択肢が増え、導入障壁が低くなっただけで、モバイルは考えずに使えるほどまだ成熟してはいない。テクノロジーを活かすも殺すも結局は人である。変えるべきものは何なのかを今一度考える機会にしてもらえれば幸いだ。

第27話 生産者と消費者は表裏一体

とある企業での話。最近導入したシステムでどのような成功事例があるかをヒアリングしたところ、「お客様に見積もりなどの書類をメールで送るものがあるのですが、これが評判よくて。これまでは書類をファクスしたり、お客様の自宅にうかがって手渡ししたりしていたんですが」という話を聞いた。この企業、日本を代表するどころか世界的にも有名な自動車メーカー。その販売会社で導入したシステムらしいのだが、話を聞いていて、過去にタイムスリップしたような気分になった。

システムは2014年に導入したとのこと。はるか10年前には、インターネットの人口普及率は66%、電子メールを利用することが多い携帯電話の普及率は72%であった。しかも、この人口普及率を押し下げているのは未成年と後期高齢者であるため、自動車の主な購買層である20代から60代でいうと、おそらく90%を超える人たちがとうの昔に自由に電子メールを使っていたはずである。確かに、私の経験でも、自動車や不動産などの業種の営業マンは、仕事をしている昼間の時間帯に何度も電話をかけてきたり、自宅に訪問してくることが多い。高額商品なので、できるだけ感情の伝わるコミュニケーションを重視することは理解できるが、書類のやりとりなどの事務処理まで電話や対面でする必要はない。

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このような話を踏まえて私が感じたのは「進化のスピードが遅すぎる」ことだ。日本が経済成長をし続けなければならないかどうかについては、人口減少などの与件を踏まえるといろいろと意見が分かれてもよいかと思うが、進化を止めてはならない。進化とは環境への適応である。日本がどのような社会になろうが、人々が幸せに暮らすための環境変化への適応力を社会全体として高めることは、普遍的な価値なのである。

iOSの活用についても同じ話であり、十分な進化ができていない。特に、消費者向け市場が繰り広げている変化に、法人向け市場がまったく追いつけていないのが問題だ。冒頭の事例とも関連するが、コミュニケーションのとり方はFacebookやTwitterなどのソーシャルメディア、LINEなどのコミュニケーションツールの登場によって劇的に変化した。例えば、LINEを使うようになってから、これまでとどう変化したかというと、受け手がメッセージを読んだかどうかを確認する「既読」の表示機能や感情を伝えるための「スタンプ」機能を実装したことによって、メールとは異なる電子的なコミュニケーションが可能になったのである。

しかし、企業ではまだまだそのようなスタイルに追いついていない。企業で使われるiPhoneではアプリの自由なダウンロードに規制がかかっているケースが大半であり、電話しか使えないiPhoneという設定も頻繁に目にする。リアルタイムのコミュニケーション手段といえば、やはり電話であり、相手の状況に関係なく、自社にとって都合のよいタイミングで電話をかけるのである。しかも、電話だけであればガラケーのほうが優れていたかもしれないiPhoneを使って。

企業が世の中の変化に対応できないということは、ビジネスモデルを進化させられないことを意味する。企業がソーシャルメディアを活用しきれていないことは、新たなコミュニケーションチャネルとして活用できていないという問題だけではなく、消費者の生活スタイルの変化を本質的な意味で掴みきれない問題なのである。いまや、消費者が共有するのは情報にとどまらない。「Airbnb」のような仕組みを用いて、自分の家の空き部屋を他人とシェアすることもできる時代になった。これまで供給側(企業)と需要側(個人)は明確に分かれていたが、これからはその垣根がどんどんなくなる。これまでとはビジネスのやり方や競争環境が変わってくる。

ただ、企業がこのような変化にきちんと対応することは簡単である。企業で働く従業員が自分の日常生活を振り返り、消費者としての立場で考え、行動していることを企業でも活かすだけなのだ。仕事とプライベート、会社と家庭といった線引きを止めて、同じ人間がやっていることをより快適に、より便利に、より楽しくしようではないか。

初出:Mac Fan 2015年10月号

執筆者

福留大士/1976年鹿児島県生まれ。株式会社チェンジ代表取締役COO。アクセンチュア勤務後、27歳で独立・開業し、大手企業に対するスマートデバイス利活用、BYODなどのコンサルティングや人材育成のサービスを提供している。