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新しいインターフェイスが拡げるアプリの可能性【opinions】

 

Apple社が素晴らしいのは、ハードウェアの進化をユーザー体験の向上にきちんと結びつけてくるところです。特に、マンマシン・インターフェイスに関連した進化を使いやすさという観点で搭載するセンスは、どんなメーカーよりも抜きん出ていると言えるでしょう。

最近であれば、 iPhone 6sとiPhone 6s Plusに搭載された3D touchです。奥行きのある操作感(PeekとPop)で見事にiOS標準アプリの利便性を向上させています。発売が待ち遠しいiPad Pro専用のApple Pencilがもたらすユーザー体験については言わずもがなでしょう。SAMSUNGのGalaxy Edgeシリーズのように、「曲面ディスプレイの技術があるから搭載した」という技術の押し付け思考をAppleは絶対に行いません。

ユーザー体験のために技術を開発し、技術はユーザー体験のために応用する。徹頭徹尾そうなので、ユーザーもデベロッパーもAppleに魅了されるのだと思います。Appleが見せる進化がユーザやデベロッパーを刺激して新たなユーザ体験を生むことすらあります。Twitter社によるpull to refresh(引っ張って更新)というインタラクションはその最たる例ですし、もっとさかのぼればポッドキャストもユーザーが発明した新しい体験だったと言えます。

アプリに「奥行き」を与える3D touch

iPhone 6s や6 Plusが発売開始になってから1カ月程度ということもあり、3D touchの恩恵を最大限に得られるアプリはまだSafariやMailなどの標準アプリやキーボード等の共通パーツに限られており、サードパーティベンダーの対応アプリはクイックアクション(ホーム画面のアプリアイコンを強押してショートカットメニューを出せる)の対応にとどまっているものが大半です。

私は3D touchの発表を見聞きして、少々キャッチーですが韓国科学技術院(KAIST)が2012年に発表したSmart eBook Interfaceという動画を思い出しました。奥行きがあるからこそできる書籍のページめくり操作を、擬似的に平面で実現する試みで当時話題になりました。

感圧タッチで奥行きを表現できるようになった今、この試作はよりリアリティを持たせたユーザー体験として実現できるに違いありません。iPad ではまだ感圧タッチ対応の見込みがありませんが、感圧タッチ対応したアプリの可能性に思いを巡らす良い素材の1つだと思います。

ちなみに、iPhone 6sやiPhone 6s Plusであれば画面の左端5mmぐらいの領域をPeek(軽く押す)して右スワイプすることでアプリを切り替えることができます。アプリを1枚の紙と見立てたページめくりをしているようにも見えて興味深いです。お持ちの方はお試しください。

(動画の30秒周辺)

この例のような使用方法に限らず、感圧タッチにインスピレーションを得たサードベンダーが、新たなアプリの可能性を我々に見せてくれることでしょう。

鉛筆の再発明だけではないApple Pencil

Apple Pencilもまた新しいインターフェイスです。

筆圧検知、傾き検知、倍密度の接触検知、遅延ゼロの高速追随、リストガード等々。これらの技術の集大成が、ハンズオンで先行利用した方の言葉を借りれば、Apple Pencil を「未来の鉛筆」たらしめています。また、画面のマルチタッチと併用することで定規による線引きを実現するなど、スタイラスの概念を覆すまったく新しいマンマシン・インターフェイスといっても過言ではありません。

しかし、書く/描くだけがApple Pencilではないということが発売後に明らかになっていくはずです。

電子書籍アプリではマーカーや線を引くインターフェイスとなり、新聞や雑誌閲覧のアプリではスクラップする部分を切り抜くインターフェイスにもなるでしょう。倍密度のポインティングができることに着目すると、RDS(リモートデスクトップサービス)を介して操作するWindows PCのマウス代わりのインターフェイスになることも想像できます。

また、アナログに書くシーンをそのままデジタルに置き換える受け皿にもなるはずです。店舗で署名を求められるような紙の申込書は電子化され、Apple Pencilで書くことになったり、展示会でアンケートを求められるときにはApple Pencilを手に持って記入するようになるのでしょう。

あまり言及されることはありませんが、Apple Pencilとセットで使うiPad Proの液晶サイズは、北米で一般的に使われるレターサイズの大きさにほぼ一致しています。iPad Pro の液晶が 264ppi の2732 x 2048ピクセルですから、計算すると10.35inch x 7.76inchです。これに対してレターサイズの紙の大きさは11.0inch x 8.5inchと縦横それぞれに0.7inch (2cm弱)程度しか変わりません。

iPad ProとApple Pencilは、その形状と組み合わせからしても紙と鉛筆の再発明を目指していると言えるのです。アナログの象徴たる紙と鉛筆がそのままの使用感でデジタル化したら一体どうなるのか。コンシューマー用途でもビジネス用途でもアプリの可能性がグンと広がることは想像に難くないでしょう。

ハードウェアの進化でUXが深化する

3D touchのみならず、(本稿では取り上げませんが)Apple TVの新しいリモコンSiri Remote 、Apple PencilにApple Smart keyboard。2015年はApple史上稀にみる、新しいハードウェアによる新インターフェイス豊作の年でした。

Appleの作り上げたアプリのエコシステムに次々と放り込まれる「感圧タッチ」「Siri Remote」「Apple Pencisl」そして「Apple Smart Keyboard」という進化したマンマシン・インターフェイス群が、まだ見たこともない素晴らしいユーザー体験を我々に提供するアプリを生み出すことになるでしょう。

執筆者

大石裕一氏/1975年大阪生まれ。大阪府立大学工学部卒業後、ソフト開発会社にエンジニアとして入社。6回の転職でWindows/MacLinux組み込み系、ネットワーク系の開発やマネージャ経験を経て、2006年株式会社フィードテイラーを設立。エンタープライズiOS分野を得意とし、安易な新規業務アプリ開発を否とする考えを持つ。自社で開発したクラウド型ファイル共有サービス「SYNCNEL」を海外含む約200社に提供中