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目が離せないIBMのシナリオ_サーバサイドのSwiftとエンタープライズiOS【opinions】

 

3月19-23日に、米ラスベガスで開催された「IBM InterConnect 2016」というイベントで、米IBM社がプログラミング言語のSwiftをクラウド化したと発表しました。その中で併せて発表された「Kitura」というフレームワークと「OpenWhisk」という新たなサーバ実装の仕組みが話題になっています。エンタープライズiOSの分野に長らく関わってきた筆者は、今回の発表が少なからず今後のiOSデバイス業務活用現場に影響を与えるものと考えています。

Photo credit: MatthewJMcCullough via Visualhunt / CC BY

発表以来、冷めることのないSwift熱

Swift言語が米Apple社から突然発表されたのは2014年のWWDC(World Wide Developer Conference)のこと。自分も含めて開発者は往々にして新しい言語に興奮するものですが、著名なプログラマーである小飼弾氏が発表直後に絶賛したことに始まり、開発者界隈でSwiftは高い評価でもって迎え入れられました。それを証拠に、人気のあるプログラミング言語ランキングの調査では、Swift言語は前例のないほどの異様な上昇ぶりを見せており、また2015年初頭のアンケートではもっとも愛される言語にも選ばれています。

昨年末にはSwiftのオープンソース化の発表で大きな熱狂が起こったほか、FreeBSD環境への移植の取り組みや、SwiftでAndroidアプリを開発する試み、サーバサイドのフレームワークなど、他プラットフォームにSwiftが広がっていく期待感も高まってきていました。国内に限って言えば、3月2日から4日に「Try! Swift」という数百人規模の大掛かりなイベントまで開催されました。

そんなSwift気運の高まる中、あたかもタイミングを見計らったように、IBMからSwiftの方向性を強化するような発表がなされたのです。

IBMがサーバ側でもコミットメントする意味

2014年にAppleとIBMが業務提携してから、IBMは「Mobile First for iOS」というブランドの元、企業の業務を支えるiOSアプリをすでに100以上リリースしてきました。その多くでSwiftを使用しており、IBMはもっともヘビーにSwiftを使っているデベロッパーとも言われています。自社が得意とするバックエンドシステムや企業の大量データの活用促進に iOS デバイスとアプリを使う、それが今までのIBMの関わり方でした。

 

しかし今回、自社で推進するPaaSであるBluemix上でSwiftを使えるようにしただけでなく、WebフレームワークのKituraや、Swiftのモジュールやライブラリを探したり共有できる「IBM Swift Package Catalog」など、本格的にサーバアプリケーションをSwiftで構築するのに必要なものを揃えてきました。また、「IBM Bluemix OpenWhisk」という、専用サーバを持たずともSwiftで書かれたプログラムを実行できる環境まで用意しており、昨今のサーバレスというトレンドもしっかりと捉えてきています。

これら一連の発表は、IBMがサーバ側も含めてSwiftにフルコミットしていくという強力なメッセージに他なりません。

大型サーバはもう流行らない、パソコン事業は売却済み、自前のスマートデバイスは持ってない…。そんなIBMには、得意の企業向けITビジネス現場でモバイル活用を促進していく他に道が残されていません。今後、Mobile First for iOSアプリのサーバ側が一部Swiftで実装されるなど、サーバ側とアプリの両方を同じSwift言語で書くメリットを強く発信してくるはずです。

事実、今回の発表に合わせてIBMのMicahel Gilfix氏(Mobile Firstの担当責任者)は「Swiftを利用することで、企業はエンド・ツー・エンド・アプリケーションの開発を大幅に簡素化でき、新たな生産性のレベルに到達できます」述べています。

もちろん、サーバとアプリの両方をSwiftでかけるメリットはIBM Bluemixでのみ享受できるというわけではありません。例えば、Swiftのオープンソース化と時を同じくして登場した「Perfect」というフレームワークもSwiftでサーバ側を実装する手段として注目されています。Appleと提携する巨象IBMがサーバサイドSwiftにコミットし大きな一歩を踏み込んだことは、Perfect等の進化とSwiftを使ったサーバアプリケーション実装を促進していくことになるでしょう。

サーバサイドSwiftはエンタープライズiOSと相性が良い

コンシューマー向けアプリを開発する場合、昨今ではサーバ側とiOSアプリとAndroidアプリの3要素が必要になります。その一方でエンタープライズにおいては、デバイスは統一される傾向にあり、セキュリティ的理由や多くの導入実績から、デバイスとしてiPhoneやiPadが選ばれることが圧倒的に多いのが実情です。その場合、開発する際に考慮すべきはサーバ側とiOSアプリの2要素であり、その両側がSwiftの一言語で書けるメリットがさらに際立ってきます。

ここでは深く言及しませんが、Swiftが言語仕様として持つ安全性(例えばOptional型の存在)や書きやすさ(例えば高機能なswitch構文)やモダンな仕組み(クロージャなど)は、稼働させて初めてわかるバグの早期発見やメンテナンスのしやすさなどに繋がっています。つまりは開発生産性の向上であり、それはエンタープライズ分野で高く評価される重要なポイントでもあるのです。

アプリとサーバの両側で生産性向上というメリットが享受できるのなら、内部で開発できる企業がiOSデバイス活用シーンでSwift言語のみで実装を完結させてしまうことも十分にあり得るでしょう。

まだまだ歴史の浅いサーバサイドSwiftですが、今回のIBMの発表により目を離せない分野の1つとなりました。今後の展開が楽しみです。

 Photo credit: MatthewJMcCullough via Visualhunt.com / CC BY

 

執筆者

大石裕一氏/1975年大阪生まれ。大阪府立大学工学部卒業後、ソフト開発会社にエンジニアとして入社。6回の転職でWindows/MacLinux組み込み系、ネットワーク系の開発やマネージャ経験を経て、2006年株式会社フィードテイラーを設立。エンタープライズiOS分野を得意とし、安易な新規業務アプリ開発を否とする考えを持つ。自社で開発したクラウド型ファイル共有サービス「SYNCNEL」を海外含む約200社に提供中