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『TOKYOTOKYO』から見えてくるモバイルアプリにおけるオープンデータ活用【apps】

東京メトロが10周年を記念して開催した「オープンデータ活用コンテスト」は、東京メトロが提供しているオープンデータを利用したアプリのコンテストだ。欧米を中心に一般化しつつあり、日本でも総務省が推進するなど、近年注目が集まっているオープンデータ。今回は同コンテストでgoodデザイン賞を受賞したインスタレーションアプリ『TOKYOTOKYO』を開発した博報堂アイ・スタジオにお話を伺い、オープンデータを利用したアプリの現在と未来を考察する。

2020年に向けた課題からコンセプトを決定

2015年は、営団地下鉄が東京メトロに変わって10周年となる。東京メトロでは、電車の運行情報、在線位置、時刻表、路線情報、駅情報などのオープンデータを提供しており、10周年を記念してこれらのデータを活用してユーザーの生活がより便利でより快適になるようなアプリを一般から募集する「オープンデータ活用コンテスト」を開催した。そのコンテストでgoodデザイン賞を受賞したのが、博報堂アイ・スタジオが開発した『TOKYOTOKYO』というアプリだ。

『TOKYOTOKYO』の製作にあたり、博報堂アイ・スタジオ コンサルティング事業部 ブランドデザインチームリーダー インタラクティブディレクター 稲積大輔氏は「単にオープンデータを使って見栄えのいいアプリを作るのではなく、東京の街や東京メトロが持っている課題を解決できる提案型のアプリに仕上げたいと思い企画をスタートしました」と語る。

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博報堂アイ・スタジオ コンサルティング事業部 ブランドデザインチームリーダー インタラクティブディレクター 稲積大輔氏(左)、future Create Lab Technical Director / Programmer 川崎順平氏(右)。

 

東京、そして東京メトロの課題として挙げたのは、

・東京の国際都市化が進んでいる。
・鉄道網の複雑化。
・高齢者の鉄道利用が増えている。

などだ。2020年東京でのオリンピック・パラリンピック開催が決まり、これらの課題の重要性はさらに増していくと考えられる。

「東京でのオリンピック開催により、東京を訪れる観光客が1日92万人と予想されていて、それだけの大人数の移動はどうするのか、というのが東京全体の課題でもあります」(稲積氏)

実際にこれらの観光客の移動の核になるのは東京メトロだと予測されている。選手村や新しい施設などはベイエリアに作られる予定で、そこから各競技場までどうやって移動するかが課題となっているのだ。

「現在、有明地区で大人数が集中して集まるのはコミケや花火大会などのイベントです。例えば、ゆりかもめでは、コミケ開催時には通常時にくらべて1日約10万人が追加で利用するそうです。そのため、本数を増やすなどの対応を行っても、電車に乗るのに1時間待ちなどという状況になったりしています。1日とか2日とかのイベントでもこれだけのパニックになるので、2020年はもっとひどくなることも考えられます」(稲積氏)

『TOKYOTOKYO』は、2020年に向けてこれらの課題を解決できるアプリとして製作された。このアプリ名は、現在の東京(TOKYO)と2020年の未来の東京(TOKYO)をつなぐという意味で付けられているという。

「基本的には基本的には外国人旅行者向けに作っています。2020年に日本を訪れた外国の方々が、いかに快適に東京を体験していただけるかというのがコンセプトになります」(稲積氏)

『TOKYOTOKYO』に搭載されている機能は大きく分けて3つ。1つ目は、オープンデータの「列車ロケーション情報」を元に、東京メトロの車両が今何本走っているのかをビジュアル化した「TOKYOインスタレーション」。2つ目はオープンデータから現在の東京メトロ各駅単位の混雑情報を、ヒートマップで可視化する「リアルタイム混雑状況画面」。そして3つ目は、東京メトロの沿線で現在混在していない場所をオープンデータから割り出し、いわゆる一般的な観光マップなどには載っていないディープなオススメスポットの情報を発信する「レコメンドディープスポット」だ。

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現在走っている東京メトロの総車両数を可視化した「TOKYOインスタレーション」。

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混雑情報をヒートマップで表示する「リアルタイム混雑状況画面」。

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メジャーなガイドブックでは得られない、より深いスポット情報を発信する「レコメンドディープスポット」。

 

オープンデータをどう活かすのか

使える機能を盛り込んだ通常のモバイルアプリとは異なり、『TOKYOTOKYO」はコンセプトモデル的な作りになっている。

「今回の『2020年に向けての課題を解決する』というコンセプトですと、実際のところ、これからもまだまだ課題が出てくると思うんです。そのあたりの余白を多めに残したくて、今でも使えるけど後々はもっともっと便利な機能を盛り込めるような作りにしています」と博報堂アイ・スタジオ future Create Lab Technical Director / Programmer 川崎順平氏は語る。

「アプリを開発したりモノを作ったりする際には、どのターゲットに向けて、どのような機能を盛り込むのかが重要で、アプリの内容を限定してしまうことが非常に多い。内容を限定するというのは市場を限定するということで、それ以外の人にははまらないということになります。そんななかで、今回のコンセプトモデル的なアプリの作り方は、通常のクライアントワークでは難しいことをやれたというのが経験として大きいと思います」(川崎氏)

オープンデータを活用したアプリというコンテストの縛りも、アプリ開発面では有意義なものだったようだ。川崎氏は「オープンデータをどう活かすかというのは、わたしたちが開発しているモバイルアプリでも、ビジネス、公共、教育など、さまざまな分野で重要になってきています」という。

オープンデータは、総務省をはじめ政府全体として推進していることもあり、行政系のデータを中心に提供が増えている。とはいえ、オープンデータを利用したアプリの開発には、問題となる点も多い。

「オープンデータを使ったアプリというのは元のデータが同じなので、例えば10個アプリがあったとしたら、みんな同じようなアプリになってしまう可能性があります。だから、オープンデータだけでなく、プラスワンの情報がないと独自性は出ない」(川崎氏)

例えば、高速道路の渋滞情報のオープンデータがあった場合、渋滞30kmとなっていても、実際行ってみると10kmくらいしか渋滞していない場合もある。オープンデータの情報のみを利用すると、30km渋滞としか表示できないが、そこにユーザーの投稿情報などを足すことで、より正確な情報を提示できると川崎氏はいう。

実際、博報堂アイ・スタジオが製作したアプリ『花粉くん』では、オープンデータで提供される花粉飛散量と、Twitterで投稿されたデータを組み合わせて、よりユーザーにとって“使える”情報を提供することに成功している。

『花粉くん』の例のように、オープンデータと組み合わせるデータとして効果的なのは、やはりモバイル機器からのリアルタイムの情報だろう。いつでもどこでも双方向でデータのやり取りが行えるスマートフォンやタブレットから“今”のデータを受け取ることで、オープンデータの持つ情報量は、より活かされることになる。

「例えば高速道路にある電光掲示板などは完全に一方通行のデータですよね。ラジオの渋滞情報などもそうです。問い合わせもできないし、それより詳細な情報を得ることもできない。それを解消することができるのがモバイルアプリなのではないかと思います」(川崎氏)

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花粉飛散量と飛散地点周辺や観光スポットで投稿されたTwitter投稿から算出した総合花粉情報を、オリジナルキャラ「花粉くん」が毎日ゆるくお知らせしてくれるアプリ『花粉くん』。

 

未来に向けてのコンセプトアプリである『TOKYOTOKYO』は、今後進化していくのだろうか。川崎氏は「リアルタイムの混雑情報などは、そこまで正確なデータが提供されているわけではなかったので、例えばアプリを使っている人の位置情報などを取得して、オープンデータとユーザーから収集したデータを組み合わせることで、より精度の高いアプリにすることはできるのではないかと思います」と語る。

「実際に『TOKYOTOKYO』がどうなるかは協賛次第であるとは思います(笑)。ただ、2020年に向けて課題を解決するというコンセプトアプリなので、これからアプリを開発する際のアイディアを思いつくきっかけになればいいな、と思っています。我々も、この部分をこうすればビジネスとして成立する、というものを思いつけば、『TOKYOTOKYO』の一部分を別のアプリとして発展させるかもしれません」(川崎氏)

今後もオープンデータの提供は増えていくと予想されるが、オープンデータを使っているだけのアプリでは、本当に役立つものにはならない可能性が高い。提供されるデータをどのように活かすか、そのアイディアが重要になってくるはずだ。

 

執筆者

佐武洋介(GMBA編集部)/20年間PC雑誌・書籍の編集に携わり、GMBA編集部に参加。モバイル機器はスマートフォン2台とタブレット6台を所有している。