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教員のICT活用指導力向上のための組織作りとは? 豊原小学校の取り組み【前編】【case study】

平成24年の『DIS School Innovation Project』への参画を皮切りに、平成25年からは柳川市のICT活用教育の推進研究指定校、そして平成26年には福岡県からもICT利活用の重点課題研究校に指定された豊原小学校。これらのICT活用教育を中心となって推し進めて来た現場のトップ新谷(しんがい)校長に、これまでの同校での取り組みの様子や、組織作りの実際について話を聞いた。

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「産学官の連携」と「普通教室でのICT」の2つのポイント

有明海と筑後平野に抱かれた豊かな土地を持ち、弥生時代から人が暮らしてきた福岡県柳川市。街中に張り巡らされた水郷で四季を楽しむ川下りや、北原白秋の育った街として全国に知られている。今回訪れた柳川市立豊原小学校も創立から150年近くの歴史を持ち、何世代にも渡って地域の学びを支えてきた伝統ある学校のひとつだ。畑や川などの自然に囲まれ、全校児童を合わせても160人あまりという小規模でのどかな雰囲気の豊原小学校だが、近年は教育のICT活用の推進で全国から注目を集めているという。『DIS School Innovation Project実証研究』への参画のきっかけとは何だったのだろうか。

「私が校長として豊原小学校に赴任したのが平成23年。前任の校長先生は「書く力」を育てる教育に力を入れておられ、学校としての学力も上り坂にありました。そこで私はこの研究を引き継ぎつつ新たな学力を目指すにはどうしたらいいのだろう?新たな取り組みとして何がふさわしいのだろう?と考えていたのです。私はもともと経済学部の出身で、商業科の教員になるためにコンピュータを勉強していたという経緯があります。校務の支援システムなどは以前にも作ったことがありましたが、やはり子どもたちにICTを使って教えてみたいという気持ちがあり、年度の後半にデジタル教科書を導入しました。また「書く力」の延長線上として、ペンを使うタブレット端末を授業に導入することも検討していて、熊本や佐賀でのタブレット授業の視察も始めていました。そんなときに、『DIS School Innovation Project』の情報を得て「これだ!」と思ったのです」

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柳川市立豊原小学校 新谷裕幸 校長

新谷校長は実証研究の魅力は大きくわけてふたつあるとし、ひとつは企業と文科省・教育委員会のバックアップがある「産学官」の連携事業であるということ。もうひとつは通常の授業の中にICTを組み込んだ「普通教室でのICT活用」が掲げられていたことだとした。

「特に普通教室でのICT活用については、子どもたちの21世紀型スキルを伸ばすためにもたいへん重要な取り組みだと考えています。しかし文科省の推奨事業でありながら教えられる人がいない、カリキュラムも実践例もほとんどないという状況で、福岡県ではまだどこの学校でも手を付けられていませんでした。本校は各学年が単学級の小規模校です。子どもひとりひとりの顔はもちろん、校内の隅々まで目が届きやすい。本校ならできる!と、いち早く手を挙げ、承認を得て平成24年12月に機器が納入されました。そしてこの時点で2ヶ月後の平成25年2月には、最初の公開授業をやると決めてしまったのです。あとはやるしかないという状況を作ってしまいました。こういうのはスピードが大事ですから」

不安やトラブルを乗り越えたことで生まれる自信

先述した通り、豊原小学校ではICTの活用について積極的に進めている。ICTの導入で大きな課題となるのが、教員のICTスキルだ。デジタル機器に対して、得意不得意もあるだろうし、自分の授業スタイルが確立している教員も多い。どのような準備をし、教員のスキルを伸ばしていったのだろうか。新谷校長は以下のように話した。

「教員のICT活用力については、研修を行えばある程度のレベルになることがわかっていました。実際にDISさんの協力で、ソフトウェアの研修もきめ細く実施していただきました。実証研究を始める前に不安だったのは、子どもたちのICT活用スキルの方でした。どうやったら子どもたちのICTスキルが育つのか、まったくわかりませんでしたから。しかし、実際にスタートしてみると心配する必要はありませんでした。今の子どもたちは、生まれたときからスマートフォンが身近にある世代です。実証研究のタブレット端末も、カメラの使い方やソフトの使い方などの基本操作をたった数時間習っただけで、どの教科においても自発的にICTを活用した学習ができるようになってしまいます。わからないことがあったら子どもたち同士で教え合う、そんな姿も今の本校ではよく見られる光景のひとつです」

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ICT機器を着実に授業の中に根付かせていった豊原小学校。平成25年に2回、平成26年にも2回の公開授業が行なわれ着実に実績が積まれている。運用は順調に進んでいるように見えるが、『課題や問題点』がないわけではない。

「実際にスタートしてみないとわからなかった問題が、開始後に次々と出てきました。開始早々に直面したのが無線LANのアクセスポイントや電源・電力などの学校設備の不足です。各教室へ情報コンセントが来ていても、複数教室同時に授業をする場合、アクセスポイントが足りなくなり、一部の教室ではネットワークが使えません。電源も電子黒板やタブレットの充電器を一度に使えるほどの容量がありませんでした。タブレット端末の数も1クラス分あればなんとかなると思っていましたが、実際には先生もスキルアップしていくと使用頻度が上がっていきます。他学級の教科と使いたい時間がバッティングしてしまったり、少ない台数の機器をあちこちの教室へと移動させることで動作が不安定になってしまうなどのトラブルも少なからず発生していました

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新谷校長自ら、配線の調節や設置を行った

こういったICT機器を導入することで起こるトラブルが怖いという教員も多いはずだ。豊原小学校では、新谷校長や当時の教頭先生がICTに詳しかったため、問題が起これば自分たちで対応していた。しかしながら、得意な先生に任せっきりにさせるのではなく、その場にいる教員みんなで試行錯誤しながら問題を解決するのが重要だとし、これを繰り返すことで、教員たちの経験や知識の積み重ねに繋がっていったのだという。

トラブルはあって当たり前じゃないですか。そのうちFAQ集を作るなど、対処方法が教員たちの間で共有される仕組みもできてきて、それぞれが自信をつけたことでトラブルを怖れる気持ちもなくなってきたと思います。設備面での不備や不足については、管理職が予算をやりくりしたり、地域の方々や制度を利用して少しずつ解決するしかありません。大切なのは子どもたちが滞りなく教育を受けることですから、そのためにできることは我々が全力でやらなきゃいけないんです

ちょっとした不安を解消できた、それが自信となって明日のエネルギーにつながるのだという。これは子どもたちにも、先生にも当てはまる話なのだろう。後編では、教員たちのスキル育成についてより詳しく聞くとともに、これからの展望、校長が決断すべきポイントについて話をきいていく。

AOUTHOR/伊達 千代

初出:DIS教育ICTソリューション