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豊原小学校が目指すICT活用の未来。今必要とされる学校経営とは【後編】【case study】

前編では柳川市立豊原小学校の『DIS School Innovation Project』への取り組みについて、参画から運用までの話を聞いた。普通教室でのICT活用にはトラブルも少なくなかったが、試行錯誤の積み重ねることが子どもや先生たちの自信や活力、喜びにもつながったとのことであった。今回の後編では、ICT活用教育を実践するにあたって必要となった人事や組織作りを中心に、現場のトップである校長が決断すべきポイントについて聞いていく。

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教員のICT活用スキルを伸ばす人事とは?

学校全体として新しい事業に取り組むには、現場のトップである校長が決断しなければならないことも多岐にわたるはずだ。どのような人的体制を組むのか、あるいはどのように責任を分担するのか。特定の先生に業務を偏らせることなく、普段から忙しい先生たちの負担を増やさないためにどのような工夫が必要なのか。3年にも及ぶ、新谷校長の『DIS School Innovation Project』の振り返や今後の展望も、これから全国各地で加速化していくであろう教育現場でのICT活用を成功させるための大きなヒントになるだろう。まず、注目すべきは、ICT教育の支援員を入れず、既存の先生方だけで実証研究にあたってきたというところだ。その理由とは?そして、研究に取り組むためにどんな体制作りをしたのか。

「”ICT支援員さんを入れてください”、という声は確かにありました。けれども私は限られた予算を支援員さんではなく、設備投資の方に回したいと考えていました。自分たちでできるところは自分たちでやろう。ICTを外部の人に任せっぱなしにはしたくないのだと先生たちを説得したんです

そして先生たちに、2人1組のペアを組んでもらったという。

「小学校の教育課程は、1年生と2年生がよく似ています。同じように3年生と4年生、5年生と6年生がそれぞれ似た課程になっています。この2学年ごとの担任に、ベテランの教員と若手の教員をそれぞれ割り当てたのです。ベテランの先生は教育内容を熟知しているけどICTはわからないことが多い。逆に若手の先生はICTには慣れているけれども教育内容はまだ未熟。組み合わせることで、お互いの足りないところを補い合うことができるので、とてもうまく行っています。机も隣同士でいつでも相談し合えて安心と、先生方からの評判もいいんですよ」

しかしながら、新しい取り組みを始めれば従来の業務と重なり先生たちの負担が増えてしまうだろう。現場から不満の声は出なかったのだろうか。

「なるべく教員の負担を増やさないよう教務全般の見直しを行いました。具体的には、学校内の会議を大幅に減らしました。本校のような規模の学校では特に、会議よりもその場でひとつずつ問題を解決してしまう方が、実効性が高かったからです。それでも、このようなプロジェクトが教員の負担増につながるという話は、他校の先生たちからもよく聞きます。しかし、うちの教員から「きつい」とか「つらい」といった言葉はひとつも聞こえてきませんでした。楽しんでICTに取り組む子どもたちを見て、先生たちもやりがいを感じる。という好循環が生まれていたからだと思います」

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タブレットのみならず、ロボットなどさまざまなICT機器を導入している

『DIS School Innovation Project』の先にあるもの

3年間の実証研究が間もなく終了し、また新谷校長は今年度いっぱいで退官する。今後の小学校のICT環境はどうなるのだろうか。新谷校長はこれまで行ってきた組織作りに触れ、その真意について話してくれた。

「私は特にこの約2年の間に、ICT活用教育を組織化する取り組みを行ってきました。具体的には「教育」や「事務」などと並ぶ「学力向上部」の中に、「教育の情報化担当」という部門を作り、その中に「情報教育」「ICTの普通教室での活用」「校務の情報化」という3人の担当を配置。さらに「ICT環境係」を設け、継続的に環境を維持・改善できる仕組みを作ったのです。ここまでたくさん情報化に関わる人がいる学校は、他にはあまりないでしょうね。人事は、校長にとってアキレス腱と言ってもいいほど大事な仕事。でも、組織は作っただけではダメなんです。それぞれが機能し、動くようになってくれないと。動き出してしまえば、もう私がいなくなっても大丈夫になります。最初はトップダウンで主導していた組織が、どこかでボトムアップに切り替わる瞬間というのがあるのですよね。この瞬間を意図して作って行くのが管理職の役割なんだと思っています。そのためには、”理想は高く掲げ、細かなところは任せてしまう”というやり方がポイントなんです」

教員たちが自発的にICT活用を進めていく環境を整えていく。その環境が整いさえすれば、校長が変わり、方針が変わったとしても、ICTの活用が止まることはないだろう。この5年間を振り返り、新谷校長は「こうやって実証事業を途切れなく高まりや広がりを持った”柱”として来られたことを、この上ない幸せだ」と優しく笑った。今後の教育のICT活用について聞くと、

ICTにも教育にも、”ここまで行けば終わり”というゴールはありません。私の校長として残された大事な仕事は、新たなゴールを示しつつ環境を整えていくことだと考えています。いま私が考えているのは、子どもたちが学びのあしあとをICT機器の中にどれだけ残せるか?ということです。手書きをなくしていいと言っているわけではありません。紙もタブレットもどちらも選べて使いこなせる。それが本当の21世紀型スキルと呼べるものなんじゃないでしょうか。そこまで来たら、本当に教育にICTが定着したと言っていい。そのためにはまず、先生たちから先にタブレットを持ってもらいたいし、Wi-Fiでネットワークに繋がっていて欲しい。ICTがもっともっと大人の世界に普及していかないとダメだと思っています。大人が”苦手だな””面倒だな”と思っているようじゃ、教育なんてできません。子どもはできるんです。それを信じないといかんのです。ICTを特別なものにしてしまったら、活用も進むわけはないんです

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子どもの力を信じ、子どもの可能性を最大限に広げる。そのためにICT活用教育を推進していくのだという、新谷校長のぶれない信念。それが豊原小学校での実証研修の成果につながっているのだろう。

AOUTHOR/伊達 千代

初出:DIS教育ICTソリューション