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リアル店舗とECを融合したシステムで効率化と売上げ増を実現するABCマート【前編】【case study】

靴の小売りチェーンとして、国内のみならず海外へにも店舗を展開しているABCマート。同社はiPadを使ったユニークなシステム「iChock」を導入している。リアル店舗とECをうまく融合させたそのシステムは着実に実績を上げ、現在ではなくてはならないものとなっている。導入した経緯やもたらした効果などについて、担当者に話を聞いた。

売り上げが数倍に! 確実に成果を上げている「iChock」というシステム

「実は、改めてざっと売上げの推移を確認してみました。すると、2014年3月から2015年の2月までの1年間で売り上げは約5倍、2015年の3月から2016年の2月までの1年間でも2倍以上になっていますね(同社は2月決算)」

これは、ABCマートがiPadを使って運用している独自のシステム、「iChock(アイチョック)」による売上高の推移だ。話をするのは、同システムの導入と運営で中心的役割を果たしている井上義裕氏。

「iChockがスタートしたのは2012年のこと。ほぼすべての店舗で使うようになったのは2014年の2月ぐらいでしす。導入店舗が増えた影響で数値が増えているというのも、もちろんあります。しかし、予想以上に効果を上げていますね」

井上氏は株式会社ABCマートのシステムEC部 ECチームのチームマネージャー。ABCマートはご存じのとおり、全国に展開している大手の靴販売チェーン。日本国内に約850店を構え、国外を合わせると総店舗数は1000店を超えるという。

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株式会社エービーシー・マートのECチーム チームマネージャー 井上義裕氏

ところで靴を購入するとき、ピッタリのサイズが店舗の在庫にないという経験をしたことはないだろうか。そういった場合多くの店舗では、取り寄せをしてもらうことになるだろう。もしくは時間がかかるのを面倒と思い、購入をあきらめてしまう人もいるかもしれない。

そんなときこれまでのABCマートでは、“直送”という独自のシステムを活用していた。店舗に顧客が希望する商品やサイズがない場合は、販売スタッフが店頭のパソコンで在庫を調べ、在庫のある店から直接送るというシステムだ。在庫がある店が近隣の場合は、直接その店にスタッフが取りに行く場合もある。店舗間のやり取りは、主にファックスを使っていた。

このサービスは顧客にとっては便利だが、店舗にとっては効率は悪い。同時に複数の店舗のスタッフが、最低でも2人関わる必要がある。場合によって複数の店舗とやり取りすることもあったという。

「iChockは、昔からABCマートでやっていた直送のシステムを、iPadに置き換えたものです。店舗にお客様が希望する商品がない場合、販売スタッフはiPadのiChockを使って在庫を検索します。もしあれば、お客様に住所や氏名を入力してもらい、あとはECサイトの通販のように、自宅へと商品を発送するんです。他のお店に問い合わせるといった手間がなくなるので効率化が図れます

iChockの画面は、ちょうど通販サイトの注文ページのようなインターフェイスとなっており、ブラウザベースで動作する。開発に当たってはシンプルな操作性にこだわったと井上氏は話す。

「開発元には、『70代のうちの父親でも使えるぐらい操作が簡単なもの』というリクエストを出していました。お客様に入力してもらうフォームに関しても、入力しやすいように工夫をしています」

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iChockはブラウザ(Safari)上で動作するシステムだったが、現在はアプリとなっている

なおiChockを利用した場合でも、売上げはそれぞれの店舗のものとなる。元々あった直送のシステムと同じだ。また送料などはかからず、店舗と同じ価格で購入できる。

リアル店舗の良さとECサイトの便利さを兼ね備えたようなユニークなシステム、それがiChockだ。待たせないぶん顧客の満足度も上がり、販売スタッフの負担も減る。では井上氏は、どのようにしてこういったシステムを思いついたのだろうか?

2つの業務の経験が生んだiChock。今では不可欠な存在に

井上氏はもともと店舗開発を担当していたそうだ。ABCマートの新規出店に伴う、さまざまな段取りを担当する業務だ。

「新規オープンのサポートをするわけですが、その流れで新規店の手伝いもやっていましたね。当然、直送も経験していました。これが結構大変で……。手書き文字のファックスは読みづらいことも多く、そんなときはいちいち電話で確認していました。効率が悪いな、と感じていましたね

ちょうどその頃、ABCマートではECサイトの運営がスタートしていた。自社でサイトを運営するほか、Yahoo!ショッピングや楽天市場への展開も進んでいったという。

「ECサイトの方の集客が増えてきていたので、私はそちらの部署に異動となったんです。新しいショッピングサイトへの進出は、新規店舗の段取りを行うのと似たような業務だから、ということですね」

井上氏は、ECサイトでの注文受付や商品の発送という業務を担当する中で、この仕組みはリアル店舗の直送でも使えるのではないか、と感じ始めたそうだ。

「注文を受け付けて在庫を確認し、商品を出荷するわけですから、リアル店舗の直送と同じですよね。出荷に特化したシステムがあれば直送に活用できる、これは効率化にもつながるのでは、と考えたのです」

2つの異なる業務を担当した井上氏だからこそ、このアイデアを思いついたのだろう。さっそく、このシステムを役員や社長に相談したという。

ABCマートは現場主義。社長を含めた役員も、週に何度かは店舗に立って接客を行っているんです。従って、直送の大変さは全員が実感していたんですね。提案が認められ。さっそくECサイトの仕組みをリアル店舗の直送に生かすシステムに、取りかかることになりました

ECサイトのシステムをリアル店舗で活用する場合、どんなデバイスが適当なのだろうか。ABCマートが選んだのはiPadだった。

「当初iChockはブラウザベースだったので、実はノートパソコンなどでも対応は可能です。しかし接客時に使用するということを考え、タブレットにしました。そして企業のイメージを考え、洗練されたタブレット端末という印象のiPadを選んだわけです

導入したのはWi-Fiモデル。ということは無線LAN環境が店舗に必要になるわけだが、もともとABCマートの店舗にはパソコンがあり、無線ルーターのインフラは整っていた。また容量は一番小さい16GBモデルを選択。使用するアプリはiChockのみと限定していたので、ミニマムなスペックのモデルで十分というわけだ。

スタート時は活用されず……しかし現在では必須のシステムに

iChockは20店舗からスタートした。アナログな直送にかかる手間を大幅に軽減するシステムだけに、現場でもすぐに歓迎されたのではと思いきや、そうでもなかったと井上氏は話す。

「実は、最初は販売スタッフが使ってくれず苦労しました。最初に導入した20店舗は、比較的売り上げの多い大型店だったんです。そういった店舗のスタッフはベテランが多く、新しいシステムより経験を生かした接客をしがちなんですね。そういうこともあって、最初はなかなか浸透しませんでした」

また、その頃はタブレットがまだ一般的でなかったということも要因だったと井上氏は話を続ける。デジタルガジェットに慣れていないスタッフも当時は多かった。

「ただし試しに使ってみると、iChockなら店舗にない商品やサイズも販売できるわけです。そのメリットがわかってからは積極的に使う販売スタッフが徐々に増えていきました。直送にかかる手間が軽減するというメリットにも、すぐに気付いてもらえましたよ」

現在では、新しくオープンする店からは『iChockのシステムはいつ入りますか?』というように、催促が来るようになったと井上氏。iChockは既に、あって当たり前の存在になっているようだ。

「どの店舗でもスムーズに使いこなせるようになっていますね。増加を続けているiChockによる売上高の数字が、それを証明していると思います」

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なくてはならないものとなったiChock。販売スタッフも使いこなしているそうだ

 

AOUTHOR

矢口和則(エディトル所属の編集者)/Macの専門誌の編集に携わったのち、書籍やムックなどの制作に関わる。最近では、Webメディア向けの記事の執筆や編集といった仕事が多い。