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1人1台のノートPC実施から17年目の中高一貫校・芝柏、今の姿(前編)【case study】

インターネット黎明期、1999年からノートPCの1人1台

近年、タブレット端末を導入する教育機関が増えている。だが、インターネットが今ほど普及していなかった1999年から、ノートPCの1人1台環境を実施していた学校がある。千葉県柏市にある芝浦工業大学柏中学高等学校だ。同校は1999年に中学校を開校したのを機に、当時の中学1年生全員に対し、ノートPCの1人1台環境をスタートさせた。以来17年、毎年、生徒が購入するノートPCの機種は変わるものの、「文具としてのパソコン」をモットーに活用している。

中学開校時からPC導入やICT活用を進めてきたのは同校の教頭補佐・進路部長の早川千春教諭。早川教諭は「理系大学の附属校ということもあり、生徒に1人1台のパソコンを持たせることには早くから理解があった」と語る。ただし、1999年当時は、生徒がパソコンを使うといっても、プログラミング学習やソフトの操作方法を覚えるような学習をイメージされることが多かった。普通教室の中で、パソコンを文房具と同じように使う感覚、教員の意識づけ、ICTの活用を浸透させていくことは、今以上に難しかったはずだ。

早川教諭は取り組み当初から、教師全員がノートPCを使った授業を行うことが目的ではないと言い続けてきたという。生徒の発表スタイルをスライド式のプレゼンテーションに変えたり、課題提出をメールにしたり、動画を見て理解を深めるなど、授業のポイントでICTを活用するように進めてきたと説明する。そのような背景があるせいか、同校では現在でも、教員や生徒が一斉授業の中で皆が同じような形でICTを活用するのではなく、比較的自由に、自分の判断に応じて端末を活用しているのが特徴的だ。

現在、同校では2 in1のタブレットPCを採用している。その活用に関しても、授業でタブレットPCを使うかどうかは生徒自身が決める。タブレットPCを持って来てもよし、家に置いて使ってもよし。生徒個人の判断が許容されている。もちろん、教師が授業でタブレットPCを必要とする時は、予め生徒に持ってくるように連絡されるという。早川教諭は「長年取り組んできた中で、今のようなカタチに落ち着いた」と説明する。生徒自身が自分に合った使い方で学ぶことを、教員たちが受け入れることが自然なカタチのICT活用につながるという考えだ。

2 in 1タブレットPCを選択した理由としては、同校では学習内容やカリキュラムに、Webサイトを作成したり、スライドをつくり込んだりする機会が多いため、キーボードは必須だと判断した。ただし、今後の方向性については「機種を指定せず、生徒が使いたい端末を持ってくるような形になるだろう」と予測している。実際、同校では高校から入学する生徒に対しては、決まった端末を設けていない。中学1年生で購入したタブレットPCに関しても、卒業までに買い替えが必要な生徒もいる。そのようなことから、高校においては全員が同じ端末を使うことは現実的でなく、いずれはマルチデバイスに学校が対応していかねばならないと早川教諭は語る。

芝浦工業大学柏中学高等学校で今年度採用されたタブレットPCは、日本HPの「HP ENVY x2」シリーズ(左)。
Web作品づくりを通して、将来に必要な力を身につける!

生徒の自由なタブレットPCの使い方を認めている一方で、芝浦工業大学柏中学高等学校は、毎年開催される「全国中学高校Webコンテスト」(主催:学校インターネット教育推進協会/JAPIAS)に、中学2年生から高校1年生までの生徒全員が参加するように決められている。

 

同コンテストは、3〜6人でチームを組み、自分たちの興味・関心のあるテーマをもとにWeb作品をつくって競い合う。同校は、毎年優秀な成績を残す実力校で、昨年度は、最優秀賞に次ぐ「2015総務大臣賞、日本オラクル奨励賞」を受賞した。受賞作品は、女子生徒のチームが制作した「女性の輝く未来の扉」というWebサイトだ。日本の女性が抱える社会問題について調査してまとめ、デザイン性が優れていること、男性の視点も盛り込まれた内容に仕上げたことが評価された。

早川教諭はWebコンテストの取り組みについて、「Web作品制作を通じて、情報収集力や活用力、プレゼンテーション能力、チームワークなど、将来に必要とされる能力が身につくのが良い」と語る。さらに、Web作品であれば、つくった作品を多くの人に見てもらえることも生徒にとってメリットだ。

実際に同コンテストに参加した生徒たちに感想を聞いてみた。

・難しかった。受賞作品はイラストやムービーを入れてわかりやすくつくっていた(中3・岩田莉奈さん)
・HTMLでつくったが、文字の設定だけでも難しかった。サイトに載せる文章をまとめるのに苦労した。ネットで調べたものを図書室で内容を確認しながら文章にした(中2・山縣由依さん)
・実際につくってみると、基本的な知識だけでは良いものができないことがわかった。みんなに見てもらうためには、いろいろな知識が必要だとわかった(中3・齋藤雄介さん)

情報の受け手から提供者へ。生徒たちはWebサイトの制作を通して、「情報発信とはどういうものか」を学んだだろう。教育機関でICTの活用といえば、タブレット端末をいかに使うか、授業の中でどのように活用するかに目が向いてしまいがちだが、社会につながるコンテンツづくりで情報発信を体験していくことも、ICTのメリットやデメリット、デジタル端末の活用用途に気づかせる学習になったことは間違いない。このような学習を軸にICT活用を進めていることが、長年の取り組みで得た知見なのであろう。

後編では、同校が今年度から正式に取り入れた「受験サプリ」について、生徒にインタビューした内容を中心にお届けする。

 

執筆者

神谷加代/フリーランス・ライター。2010年にアメリカから帰国後、ブロガー&ライターとして活動を開始。主婦向けにタブレットの活用方法を綴ったブログなどで情報発信を行う。2012年に教育関係者向けの書籍『iPad教育活用 7つの秘訣』を執筆。以後、Webメディアを中心に教育IT関係、キッズプログラミングの分野を多く取材。教育IT系のコンテンツ制作やプロモーションなどにも携わる。