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1人1台のiPad。教育の“フレーム”の変革を目指してー愛和小学校ー【前編】【case study】

公立学校へのiPadの導入は、すでに珍しい話ではない。しかし、1人1台を実現している小学校となると、まだまだ少数といえるだろう。東京都多摩市にある愛和小学校は、その数少ない小学校の1つ。同校の松田孝校長に、小学校でのICT活用について、そして今あるべき教育の“フレーム”といった話を聞いた。

スマートデバイスは授業を変える“キー”確信を持って導入を実施

「私がこの小学校に赴任したときの生徒数は89名でした。この人数であれば、1人1台のiPadが実現できるのでは、と考えました」

多摩市立愛和小学校の松田孝校長は、東京都公立小学校教諭や狛江市の教育委員会などを経て現職。すでに教育委員会時代にiPadの小学校への導入プロジェクトを手がけ、また同時にApple TVの可能性にも注目していたという。

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多摩市立愛和小学校の松田孝校長。iPadを使った小学校教育の可能性を、熱く語ってくれた 

「テクノロジーの進歩が加速するこれからの時代、小学校でのスマートデバイスの有効活用は重要になるでしょう。特にiPadは直感的に操作でき、学習アプリも豊富です。授業を変革するキーになると確信していました」

その後、ある企業がiPadを貸し出してくれることになり、2013年10月、愛和小学校にiPadがやってきた。しかし具体的な使い方は決まっておらず、当初は試行錯誤の繰り返しだったとのこと。

「まず使ったのはカメラ機能。子どもたちにいろいろ写真を撮らせるといった使い方です。ただし、すぐに『ロイロノート・スクール』に出会いました。これは決定的でしたね」

ロイロノート・スクールとは、写真、動画、テキストなどのコンテンツを“カード”として整理し、それをつなげることで、簡単にプレゼンテーションファイルができるアプリ。児童が自分の考えをまとめて、発表するといった場面で活用できる。

「例えば1年生の“生活”の授業では、“秋を探そう”といった課題があります。そこで愛和小学校では、生徒に校庭などでさまざまな写真を撮らせ、それをロイロノートに取り込み何枚かのカードにまとめ、『自分の考える秋はこういうものです』という作品を作らせました」

愛和小学校の場合、各教室に電子黒板(大型のモニター)がある。生徒が作ったロイロノートの作品は、Apple TVを経由して電子黒板に映し、クラス全員で鑑賞するといったこともできるそうだ。

「思った以上にスムーズにできました。もしロイロノートがなかったら、iPadはいまだに単なるでかいカメラだったかもしれません(笑)。それくらい、ロイロノートは活用していますね」

また、授業支援アプリの「School Takt」もよく使うツールの1つ。このアプリは、総務省の「先導的教育システム実証事業」が提供しているクラウドから利用できる。教員と生徒で教材や写真などをやり取りできるほか、教員が生徒のタブレットの操作状況をリアルタイムでモニタリングできる。

「クラウドで提供されているサービスでは、学習アプリなども使っています。子どもたちは特に苦労もせず、すぐに使えるようになりました」

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「School Takt」を使う生徒の様子。友達の考えにコメントするといった使い方も可能だ
iPadの活用は授業を超えて

導入から約2年が経過し、iPadは愛和小学校になくてはならない存在になった。今では授業はもちろん、学校行事などでもiPadが活用されていると松田校長は語る。話を聞くと、iPadを授業でどう使っているかというレベルではなく、行事など学校生活のあらゆる場面にiPadが浸透しているという印象だ。

「現在では、児童集会や朝会などでの委員会発表や報告でもiPadを活用しています。大きなプロジェクターが体育館にあるので、それを使ってiPadのコンテンツを投影するんです。また運動会でもiPadが使われていましたね。各チームの応援団長がそれぞれの応援歌を作り、それをiPadに表示して練習していました」

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児童集会などでは、iPad内のコンテンツをプロジェクターで投影するといった使い方もされている

そして生徒たちのiPadの習熟度は、松田校長も驚くほど上がったという。たとえばAirDropといった機能も、教えられることなく、いつの間にか使いこなしていたそうだ。

「あるとき2年生の教室に行ったところ、生徒たちのiPadの壁紙が、全部同じアニメのキャラになっていたんです。『これ、どうしたの?』と聞いたら『AirDropを使って画像を共有しました』という返事。その頃、私はまだAirDropを使っておらず、生徒の方が進んでいることを実感しました」

今ではAirDropは、授業になくてはならない共有機能となってる。教員同士もAirDropを使って、データの共有を頻繁に行っているそうだ。

「データ共有が簡単にできるので、授業の進め方が変わりますね。例えば教員が作成した教材や動画を、生徒のiPadに簡単に送ることができます。これまでの授業では、動画はiPadから電子黒板に送信して、全員で同時に視聴することが多かった。でも各自のiPadの中に動画があれば、自分で動画を自由に操作して見ることができます。そのほうが、コンテンツにより集中できるわけです」

iPad+電子黒板。見えてきた新たな課題

ここで愛和小学校の実際の授業を見学した。6年生の国語の授業だ。まず黒板に「鳥獣戯画」という文字が書かれた。この時点で、子どもたちの机の上には何もない。そして先生が手にしたiPad内のコンテンツを、Apple TV経由で電子黒板に表示させる。最近の漫画だ。

「うわー、漫画だ!」

子どもたちから声が上がる。電子黒板のモニターには、現在の漫画、10年前の漫画、20年前の漫画……が表示されていく。最後に表示されたのは「鉄腕アトム」。約60年前の漫画というわけだ。続けて表示されたのは、「鳥獣戯画」の一場面。ここで、この「鳥獣戯画」が、実は漫画の祖であるという話が先生から子どもたちに伝えられた。約900年前、平安時代の漫画だという説明に生徒たちはぐっと身を乗り出す。

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iPadからApple TV経由で画像を転送。電子黒板を使って授業が進む

続けて先生は、電子黒板に映された鳥獣戯画を小さく印刷したものを子どもたちに配る。

「はい、ノートを出してください。そして見開きのページの真ん中に紙を貼りましょう」

ノートに貼り付けた鳥獣戯画の周りに、気付いたことを書き込もうという指示が出される。その後、書き込んだ内容について各自の発表があり、絵を見ながら「ウサギが怒っている」「二本足で立っている?」などの意見のやり取りが行われた。

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生徒たちは、自分が感じたことをノートに書き込む

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難しい漢字の書き順といった説明にも、電子黒板が活用されている

「じゃあ、教科書を出してください」

ここで初めて国語の教科書が開かれた。高畑勲氏による「『鳥獣戯画』を読む」が載っている。自分たちが絵を見て気付いたことと高畑氏が気付いたことの比較が行われ、着眼点や発想の違いに関してディスカッションが行われた。

あっという間に45分間の授業が終了。iPad、Apple TV、そして電子黒板をスムーズに使いこなし、視覚情報を効果的に使った授業という印象だった。しかし、授業のあと松田校長に話を聞くと、意外な言葉が返ってきた。

「いや、まだまだですね。今回のような授業は、率直に言ってしまうと過去の達成レベルであって、すでに次のステップに進まなければならない時期だと考えてます。もちろん、当初やりたかったことは、実現できてきていると言えるでしょう。タブレットもうまく使いこなしています。しかし、ICTを活用して教育の“フレーム”を変えるには至っていません」

松田校長の考える新しい教育の“フレーム”とは、どんなものなのだろうか? そして現在の小学校教育の抱える問題点とは? 後編で詳しく話を聞いてみたい。

 

AUTHOR

矢口和則(エディトル所属の編集者)/Macの専門誌の編集に携わったのち、書籍やムックなどの制作に関わる。最近では、Webメディア向けの記事の執筆や編集といった仕事が多い。