Log in

20年後求められるスキル。タブレットだけではないICT機器の活用ー愛和小学校ー【後編】【case study】【期間限定公開】

公立学校へのiPadの導入は、すでに珍しい話ではない。しかし、1人1台を実現している小学校となると、まだまだ少数といえるだろう。東京都多摩市にある愛和小学校は、その数少ない小学校の1つ。具体的なiPadの活用、そしてICT機器の活用の課題について後編でも同校の松田孝校長に話を聞いた。

小学校教育における「40年ギャップ問題」とは?

松田校長に、iPad導入に対する保護者の方の反応を聞いてみた。

「はっきりした反対はありませんでしたが、懐疑的でしたね。やはり自分たちが小学生だったころのような授業をやってほしい、という意見もありました」

この現状は危険だと松田校長は話を続ける。

「本来教育は、子どもが大人になる時代を見据えるべきです。例えば小学校4年生は10歳ですが、30歳になる時代のことを考える必要がある。どのような世の中になっているか? どんな資質や能力が求められるか? そういうことを念頭に置いて、教育をしなければならない」

こういった状況を表す言葉に、「40年ギャップ説」というものがあるという。唱えたのはイギリスの教育者、マイケル・バーバー氏。保護者は、自分たちが受けた20年前の教育を基準に考える。しかし本当に必要な教育は、子どもたちが実社会で活躍する20年後を見据える必要がある。つまり40年というギャップがそこにあるというわけだ。iPadの導入に当たって、この40年ギャップ説を実感したと松田校長は話す。

07.pdf 1

40年ギャップを説明するため、松田校長が作成した資料 

「テクノロジーが発達している現代において、小学校教育でのICTの活用は、生きる力を付けるという意味でも当然の流れでしょう。もちろん、理解のある人も大勢いらっしゃいます。しかしギャップを感じてしまう考え方の保護者もいますね」

社会は変化し続けているのに、学校は100年前と変わらないマスの授業、知識を詰め込む授業を継承していると松田校長は話を続ける。

「学校は本来、時代と技術を学ぶための最先端の場だったはずです。しかし現在はそうなっていない。その問題を、ICTの導入が顕在化させてしまった。私は自分自身を戒める意味で、『子どもたちはランドセルを背負って、過去にタイムスリップするために学校に通っている』とよく話しています。それぐらい、特に公立学校は時代遅れなんですよ」

教員のマインドにも変革が必要。授業のあり方も変化すべき

「普通の学校では『45分間の授業の中で5分でもいいからタブレットを使ってください』と校長などが指示することが多いんです。しかし私の場合は、『45分間の授業の中で50分間タブレットを使ってください』と教員に言っています(笑)。それくらい言わないと活用してくれないんですね」

その結果が、今の愛和小学校だ。iPadなどのICTを活用し、着実に成果を上げている。とはいえ最初の頃は、デジタルデバイスに抵抗がある先生もいたそうだ。大きな転機となったのは、教員向けのICTの研修会だったという。

「研修会は、講師も教員が務めるというスタイルで実施しました。そういった経験を通じて、教員の意識がずいぶん変わったと感じました。iPadなどのスマートデバイスの導入には、実は教員のマインドセットを変えることも重要なんです」

08

昨年行われた教員向けのICTの研修会の様子。講師も教員が務めていた

前編で触れた6年生の国語の授業なども、教員のマインドセットが変わった成果のひとつと言えるだろう。しかし、そこでも触れたように、まだまだ足りないと松田校長は考えているそうだ。

「今日見てもらった授業は、既存の授業の連続線上としてのICTの使い方という意味ではすごくよかった。ただ、本当にiPadの機能を生かした新しい授業になっているかといえば、全然なっていません。子どもに学びを促す工夫がまだまだ足りないですね」

現状のICTの活用は、既存の教科教育の“フレーム”にiPadを加えているだけ。これではイノベーションとは言えないということだ。例えば、iPadの機能から導き出される授業のスタイルも考えられる。

SkypeやFaceTimeを使った遠隔地とのコミュニケーション。あるいはVRやARを使った授業。そういったデジタルデバイスでしかできない授業を構想しなければならないと考えています。そうすると授業は面白くなるし、よりダイナミックになる。子どもも面白いから学ぶようになるはずです」

授業のあり方も、根底から変えるべきと松田校長は強調する。これまでの授業は、「教師が生徒に知識を伝達することに最適化された」ものだった。しかしこれからは「生徒が主体的に学ぶ、子どもが主語の授業」にしなけれならない。

「“フレーム”を根底から変える必要がありますね。そして、その変革を促す可能性を持っているのがICTだと考えています」

プログラミングやChromebookの導入。ICTの活用は新たな段階へ

ICTによって、実際に授業がダイナミックになった例として、松田校長は新しい試みであるプログラミングの授業を挙げてくれた。

「普通の授業だと、集中力が5分ともたないこともあるんです。しかしプログラミングの授業では、90分、集中力が続きました。これには驚きましたね。子どもたちの意欲に火が着いたという感じです」

プログラミングの授業は、1年生から6年生まで、すべてで行っている。ただし、子どもたちの発達段階に合わせて、それぞれ異なったツールを採用している。1年生は「Scratch Jr」、2年生は「Viscuit」、3年生は「Scratch」、4年生は「Tickle」の日本語版、5年生は「MinecraftEdu」、そして6年生が「LEGO MindStorms」を使っているそうだ。

09

プログラミングの授業の様子。生徒たちは夢中になって取り組むという

10

6年生のプログラミングの授業では、「LEGO MindStorms」を使用している

「例えばゲームを作るというプログラミングの授業では、1人が完成させると、ほかの生徒が見に行き『わぁ、スゲー!』と歓声が上がるんです。そしてほかの子どもも競うようにゲームを作り、同じように盛り上がる。非常にアクティブな授業ができました」

プログラミングの授業では、子ども同士のコミュニケーションが活発になる点もポイントだったと松田校長は話す。

「わからないところは教え合っていました。先生が指示をしなくても、自然とそうなるんですよ。また、他人の作ったものをけなすようなことはなく、『すごい、僕も、私もやってみよう』という態度だったのが印象的でした。お互いにリスペクトする雰囲気です」

教育にICTを導入すると、子どもたちは個々の世界に入ってしまい、コミュニケーションが不足する。そんなイメージを持っている人もいるだろう。しかし実際には、子ども同士の情報のやり取りは活発化するようだ。

そして愛和小学校では最近、Chromebookも導入した。全校で25台だが、クラスで活用するには十分な数だ。実際に活用してみて、松田校長はあることに気付いたという。

「それは、やはりキーボード入力は大事だということです。生徒が自分の思考を表出するとき、iPadのソフトウェアキーボードでは、どうしてもやりにくい。ちゃんとタイピングできるほうがいいですね。特に高学年には必要だと思います」

11

Chromebookを使った授業。以前から注目していたデバイスと松田校長は話す 

iPadをはじめとするICTデバイスにより、画期的な教育を推進している愛和小学校。今後は図工の時間に3Dプリンターを導入するなど、さらに教育の“フレーム”の変革を進めていきたいと松田校長は話す。教育とデジタルを考えるうえで、ますます目が離せない小学校と言えそうだ。

<告知>
i和designe-Final Presentation(その到達点と未来)
2016年3月12日、愛和小学校において公開授業が開催されます。研究発表や講演なども同時に開催される予定。詳細や参加の方法は、Webサイトを参照してください。

icon 

 

AUTHOR

矢口和則(エディトル所属の編集者)/Macの専門誌の編集に携わったのち、書籍やムックなどの制作に関わる。最近では、Webメディア向けの記事の執筆や編集といった仕事が多い。