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夜の点滴交換作業を、ぐっと楽にしたバーコードリーダ【case study】

入院患者を多く抱える病院において、点滴の交換は重要な日常業務の1つ。誤投与などのミスを防ぐには、患者・薬剤・担当者の確認が欠かせない。千葉県船橋市のセコメディック病院では、iPodタッチと一体型のバーコードリーダを導入することで作業の効率化を図っている。

3点照合を手軽に実施

千葉県・船橋市のセコメディック病院は、今年4月からiPodタッチに取り付けて使うアスタリスク社製のバーコードリーダ「アスリーダー(AsReader)」を導入。点滴注射の実施業務の効率化や安全性の向上で成果を上げている。

アスリーダーはiPhoneやiPodタッチの背面に装着して使うバーコードリーダ。接続にケーブルを使わない一体型デザインにより、業務用のハンディ端末と同等の使い勝手を低コストに実現する。セコメディック病院では主に、患者の点滴注射時に行う「3点照合」という確認作業でこのシステムを使う。

点滴注射は入院施設を持つ病院の重要な業務の1つだ。セコメディック病院は地域の中核病院として292床の入院ベッドを備えている。点滴注射の実施時刻は患者によって異なるため、早朝から深夜まで、ほぼ一日中、どこかで作業が行われている。

作業時には、看護師が医師のオーダーどおりの点滴注射を間違いなく実施するために「3点照合」を行う。3点とは「患者」「点滴注射(輸液)」「実施者」を指す。まず、患者の腕に巻かれているバーコードをリーダでスキャンすると、画面にはその患者に対する医師のオーダーが表示される。次に、点滴注射のバーコードをスキャンすると、その輸液が医師の指示どおりの物であるかをシステムが照合し、問題があればアラートが表示される。最後に実施者が自分の職員証のバーコードを読み取って、3点照合は終了。患者に合った注射が間違いなく行われ、同時に誰が誰に何を実施したかが記録される仕組みだ。

バーコードによる3点照合は、もともとキャスター付きのカートに載せたノートPCで行われていた。これはアスリーダーを導入した現在でも使われている。ポイントは、モバイル端末を使うことで、時間と場所に縛られず、手軽に作業を行えるようにしたことである。

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医療法人社団誠馨会セコメディック病院は地域の中核病院として、患者・職員・社会の3者が満足できる医療を目指している。
深夜の点滴交換に効果を発揮

iPodタッチによるモバイル端末を導入した経緯を、セコメディック病院ICT・診療部クラーク担当の西河知也氏は、次のように語る。

「ノートPCを載せたカートには、心理的、環境的、時間的な問題があります。看護師にとって、夜間、患者が寝ているときに遠方の部屋までカートをガラガラと押していくのは抵抗がありますし、病室によってはPCにつながったバーコードリーダーが患者の腕まで届かないこともありました。また、ノートPCは1人1台ありますが、ピーク時には足りなくなることもあり、かといって置き場所の問題から、これ以上カートを増やすことはできませんでした」

コンパクトなモバイル端末なら、持ち運びも簡単で、手の届く範囲ならどこでもスキャンでき、必要な業務をすぐに行えるため、ノートPCの欠点をカバーできるわけだ。前述のように、現在、ノートPCとモバイル端末は併用されており、状況によって使い分けられている。3カ月の使用ログを見るとモバイル端末の特性がよくわかる。

「ログを見ると、夜間の23時~翌日0時でモバイル端末の利用率が高まっています。夜間の点滴更新には、モバイル端末のほうが断然楽なのです」

iPodタッチの稼働台数はまだ病棟あたり3~4台とPCの半数以下であることを考えると、想定どおりの効果を発揮しているといえそうだ。全体平均ではiPodタッチの利用率は約25%と、PCとの台数比に近い値になる。現場の看護師にも好評とのことだ。看護師がPCを併用している理由は、今のところiPodタッチでできることが限られているからだ。1度にさまざまな業務を行ったり、細かい一覧表を確認したりする際には、大画面とキーボードを備えたPCのほうが便利だ。確実な3点照合を支援することは、患者だけでなく、職員を守ることにつながると西河氏は言う。誤投与を防ぎ、作業者が指示どおりに作業したことを記録が証明してくれるからだ。

「当院では、職員・患者・社会の3つを満足させる医療を目指しています。職員が安心して働ける環境でなければ、患者の満足度を上げることはできません

職員をサポートするために新しいテクノロジーを導入することは、優秀な医師や看護師を確保するうえでも必要なことだと西河氏は語る。

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セコメディック病院 ICT・診療部クラーク担当 西河知也氏。 
有線接続と充電器が導入の決め手

iPodタッチとバーコードリーダーの組み合わせは、アスリーダーの導入前にもいくつか試したという。ブルートゥース接続やUSB接続のバーコードリーダを、変換アダプタ経由でiPodタッチにつないで使ったこともある。しかし、ブルートゥースは一度接続が切れると再接続が面倒で、USB接続は変換アダプタが壊れやすいなど、現場のニーズとはかみ合わなかった。リーダ一体型のアスリーダーは、同病院の導入目的にぴったりだった。

アスリーダーを採用したもう1つの要因が充電の簡単さだ。アスリーダーには、専用の非接触式充電スタンドが用意されており、iPodタッチとアスリーダーの両方を同時に充電できる。このスタンドには磁石が内蔵されており、本体をスタンドに貼り付けるだけで充電が始まる。

iPodタッチとアスリーダーの組み合わせは導入コストも数年前のPDA端末の半分ほどで済んだという。電子カルテと連動するためのシステム開発や、サーバ導入などのコストを含めても、低コストな導入が可能だったということだ。

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iPhone/iPodタッチ用のバーコードリーダ「アスリーダー」。一体型なので、取り回しがいいのが製品の強みだ。

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アスリーダ導入の決め手となった重要なポイントがライトニングコネクタによる直接接続だ。iPodタッチの電源を入れれば確実に接続される。

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電子カルテシステムから出力したバーコードを入院患者の手首に巻いておき、これを読み取ることで確実な本人確認ができる。

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有線接続のバーコードリーダも使用していたが、接続用アダプタの故障が多く(写真下)、実用面での問題を抱えていた。

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3点照合の流れ。まず、患者の腕につけられたバーコードを読み取り、点滴対象者の本人確認を行う。

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次に患者ごとに用意された点滴や注射のバーコードを読み取って、医師のオーダーどおりであることを確認。最後に作業者である自分の名札のバーコードを読み取って、3点照合が完了する。
今後もモバイルの可能性を追求

西河氏は、現在のiPodタッチ活用について「まだ第1段階に過ぎない」と言い、すでに次の活用に向けて企画を進めている。第2段階として考えているのは、カルテ入力と内服確認だ。

「現在、電子カルテの記載は事後入力になることが多く、これでは残業も増えますし、その場で気づいたちょっとした情報は入力されません。しかし、医療の安全と質の向上につながる情報は、現場の一瞬の気づきにあると思います。モバイル端末で素早くカルテ入力できれば、ヒヤリ・ハットのインシデントレポートは飛躍的に増えることになり、それらのビックデータは医療の安全と質を益々向上させることでしょう」

「内服確認」では、飲み薬にもバーコードを使った照合システムを検討中だ。将来的には医療現場における、サプライチェーンマネジメントの実現を目指すと西河氏。

「医療業界のサプライチェーンは、他業界とくらべて遅れています。とくに看護の現場では、医薬品のオーダーなどを人力で管理していることも多く、現場で誤って廃棄される薬剤なども多いです。これらの在庫をシステムできちんと管理して、医薬品のコストダウンが実現できれば、医療の質の向上とコストの削減の両方でメリットがあるはずです」

【患者確認】
最近の病院では患者の手首にバーコードを巻いておき、患者の取り違えミスを防止するところが増えており、医療用にアレルギー対策などが施された専用のバーコードがある。バーコード認証をきちんと機能させるためには、指示や実施をシステムに必ず記録するなど、運用ルールの徹底も必要になる。
【バーコードリーダ】
バーコードは専用アプリを入れればiPhoneなどのカメラでも読み取れる。しかし、カメラを使った読み取りでは、位置やピントを合わせるのに時間がかかったり、照明の影響を強く受ける。素早く、確実にバーコードを読み取るためには、レーザ光でスキャンするバーコードリーダを接続するほうがよい。

 

AUTHOR

木村菱治/有限会社リトモ代表取締役。日経BP社日経パソコン誌の編集に従事した後、独立。現在は主にコンピューター関連の雑誌、書籍、広告の編集制作を行っている。

初出:Mac Fan Web