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「Mobile World Congress 2016」に見る携帯電話の最新ネットワーク動向【topics】

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2月22日よりスペイン・バルセロナで開催されていた携帯電話・モバイルの総合見本市イベント「Mobile World Congress 2016」(MWC)。同イベントでは、モバイルに関連するさまざまなデバイスやネットワーク技術が公開されていたが、なかでも今年盛り上がりを見せていたのはネットワークに関するものだ。今回はMWCで展示されていたさまざまなネットワーク技術から、携帯ネットワークの今後について追ってみたいと思う。

IoT時代に対応したモバイルネットワークの登場

最近のネットワークの取り組みにおいて、従来から変化したと感じる要因はIoT(Internet of Things:モノのインターネット)にある。従来の携帯電話のネットワーク技術は、いかに高速・大容量の通信が実現できるかを重視して開発が進められてきた。だがここ最近、IoTの盛り上がりを受けて、その傾向にやや変化が出てきつつある。

IoTでは多数の機器を同時にネットワークに接続する必要がある一方、1つ1つの機器が通信する量や速度はスマートフォンやパソコンとは比べものにならないくらい小さい。しかもそうした機器は一度設置すればしばらく置き換えることはないため、乾電池などで1年間動作するようなデバイスも出てくることが想定される。それゆえ最近では、通信速度は低速でも、消費電力が少なく、しかも多くの機器を同時に接続できるネットワーク仕様が求められるようになってきたのだ。

そうしたIoTへの対応に向けて、これまで携帯電話ネットワーク技術の標準化団体である3GPPでは、LTEのカテゴリ0(Cat 0)やカテゴリM(Cat M)など、低速ながら多くの機器が接続できる手段の標準化が進められてきた。だが、より一層低速でよいので、より多くの機器を接続したいというニーズに応えるべく、現在新たに「NB-IoT」(NarrowBand IoT)という仕様の標準化が進められている。

NB-IoTは、Cat 0やCat Mなどと同様にLTEの仕組みを用いながら、使用する周波数の帯域幅を200KHzにまで絞ることで、より多くの機器を同時接続しつつ、一層の省電力も実現するというものだ。このNB-IoTを採用した機器は、早ければ今年にも登場すると言われている。NB-IoTによって通信機能を備えた小型のIoT製品を安価、かつ長寿命で提供できるのはもちろんだが、3Gの通信モジュールをLTEに置き換えるうえでも、NB-IoTは大きな貢献を果たすと見られている。

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MWCのエリクソンブースより。NB-IoTはCat Mと比べても、使用する帯域が狭く低速だが、その分多数の機器を接続でき、消費電力も小さい。

無論IoT向けだけでなく、一般ユーザーがスマートフォンなどを利用するうえで求められる、通信の高速化に対するニーズも依然として高く、MWCでは高速化に向けた取り組みもいくつか見られた。なかでも、既存の枠組みや技術を用いて高速化を実現しようというのが、「LTE-U」「LAA」と呼ばれるものである。これは要するに、Wi-Fiなどに用いられている免許不要で利用できる周波数帯(5GHz帯など)でLTE方式による通信を行い、既存の携帯電話事業者が持つ周波数帯域とキャリアアグリゲーションすることで、高速化を実現しようというものだ。

ちなみにLTE-UとLAAの違いは、電波干渉を防ぐためのLBT(Listen Before Talk)という仕組みが入っているか否かにある。日本などではこのLBTを導入することが法令で求められているため、LBTのないLTE-Uは導入できず、LAAに対応した機器の登場を待つ必要がある。だが米国や中国、韓国などはLBTの導入が求められておらず、LTE-Uでの商用展開が可能なことから、早ければ今年には、一部の国で商用サービスが展開されると見られている。

LTE-UやLAAは、あくまで携帯電話の電波免許を持つ事業者に向けた技術だが、昨年末には、これを携帯電話の電波免許を持たない事業者も展開できるようにする「MuLTEFire」という技術を推進する団体が立ち上がるなど、さらなる広がりを見せようとしている。Wi-Fiを推進する団体との衝突などもあるようだが、日本にいつ、どのような形でこうした仕組みを用いた通信手法が導入されるのか、注目されるところだ。

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MWCのクアルコムブースにおけるMuLTEFireのデモ。免許不要の周波数帯域でLTEによる通信サービスを提供できる仕組みだ。
さらなる高速化と大容量化を実現する「5G」

そしてNB-IoTやLAAなどの先にあり、将来的な通信サービスの向上を実現するうえで期待されているのが「5G」である。5Gは標準化に向けた動きが始まったばかりだが、今年のMWCにおいて非常に大きなテーマとなっており、MWCでもネットワークに関連した多くの企業が5Gに関する展示を実施していることから、通信業界は確実な盛り上がりを見せているようだ。

5Gに関する明確な定義は、現時点で明確になされているわけではない。だが各社が5Gに向けた目標としている性能を見ると、10Gbpsもの高速・大容量通信を実現するほか、1ミリ秒の低遅延、さらにIoT時代に向け、より多くの機器を同時接続することなどが検討されている。現在の4G(LTE-Advanced)より大幅なスペックアップがなされることは確実なようだ。

一方で、それだけの性能を実現するには、より新しい技術の導入が求められる。もっともわかりやすい要素となるのが周波数帯で、10Gbpsもの通信速度を実現するには現在の周波数帯の帯域幅では明らかに足りない。そこで5Gでは、まだ使われていない、10Gbpsを超えるような一層高い周波数帯の活用が検討されている。

高い周波数帯の電波は確かに空きが大きいが、一方で障害物を回折しにくく、遠くに飛びにくいという弱点も持ち合わせている。そこで5Gでは、多数のアンテナ素子を用いて電波を送信する「Massive MIMO」などの技術によって電波の指向性を高めることで、遠くの端末にも的確に電波を飛ばす取り組みが進められているようだ。

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MWCのエリクソンブースにおける5Gのデモ。画面上の緑や青の部分が電波を送信している部分であり、指向性の高いアンテナを用いて端末を追従し、高い周波数帯の電波を直接送っている様子を示している。

他にも、複数のアンテナを用いて、複数の情報を同時にやり取りする「MU-MIMO」や、従来より一層多くのデータを転送できる変調方式「256QAM」の採用など、さまざまな取り組みによって高速・大容量化を進めることが検討されている。なかにはファーウェイのように、5Gに向けた要素技術の一部を活用することで、既存のLTE-Advancedの性能を高める「4.5G」のサービスを展開しようという動きもあるようだ。 

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MWCのファーウェイブースより。5G向けの技術を用いることで、既存のLTE-Advancedを高速化する「4.5G」を目指す動きもある。

高い性能を実現する5Gの活用によって、動画など大容量データのやり取りが期待されているのはもちろんだが、もう1つ注目されるのが低遅延を生かした遠隔操作である。遅延が少なく正確、かつリアルタイムに動きを反映できることから、遠隔医療などの実現に向けても、5Gが大いに期待されているわけだ。

もっとも、5Gは現時点でまだ標準化に向けた取り組みが始まったばかりであるし、実際に商用サービス展開がなされるのも、早くて2020年頃からとされている。それだけに、5Gの盛り上がり機運は感じるものの、まだ明確な方向性が見えているわけではなく、模索が続いているという印象を受けるのも事実だ。

またユーザーの側も、国によってはLTEがようやく広まったばかりという段階であるし、日本でも4Gのインフラで満足する傾向が強まっていることから、インフラに対する注目度は現状、あまり高いとはいえない状況にある。キラーコンテンツの不在で3Gの普及が進まず、スマートフォンの登場でようやく3G、4Gの導入が進んだという過去の歴史が示しているように、ユーザーのニーズが高まらなければ5Gの導入もなかなか進まない可能性がある。それだけに今後求められるのは、5Gに向け業界全体で盛り上がりや関心を高めていくだけでなく、5Gを有効活用するデバイスやサービスを、いかに生み出していくかということだ。

そうした意味でもMWCで毎年注目されているのが、デバイス面での取り組みである。最近ではスマートフォンが飽和傾向にあるなか、ウェアラブル、IoT、そして今年はVRといったように、さまざまなデバイスに向けた取り組みを確認できた。スマートフォン並みに爆発的な普及を生み出すものがそう簡単に生まれることはないかもしれないが、新しいデバイス取り組みのなかから、5Gに向けた可能性を示すものが登場することに期待したいところだ。

 

AUTHOR

佐野正弘/福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。