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日本の未来を変える「教育とテクノロジー」の祭典レポート【topics】

中学・高校生向けのプログラミングキャンプ・スクール事業を手掛けるライフイズテック株式会社は、3月1日に都内で教育とテクノロジーをテーマにしたトークイベント「EDU x TECH Fes 2015」を開催した。大学、ゲーム、アート、エネルギー、学校現場などさまざまな分野で“最前線”を走る8名の登壇者が熱弁をふるった。

各界のフロントランナーが教育とテクノロジーを語る

教育とテクノロジーの祭典EDU x TECH Fesが、2年ぶりに東京・港区のニューピアホールで開催された。今年で3回目となる同イベントは、各界で活躍する人々を招いて「教育とテクノロジー」というテーマをそれぞれの専門分野との掛け合わせで語るという内容だ。8名のスピーカーが各30分間という持ち時間でプレゼンテーションする構成で、短いながらも濃密なトークが次々に展開されるのが面白い。ICT教育に興味を持つ大学生以上と教育関係者を中心としたイベントだが、中学・高校生にとっても有意義な場所であるという観点から中高生向けの無料席も用意された。

当日は、慶応義塾大学環境情報学部長の村井純教授を皮切りに、品川女子学院の酒井春名教諭、元スクウェア・エニックスCTOで現在ライフイズテック株式会社の執行役員である橋本善久氏、ミドリムシの栄養素やバイオ燃料としての可能性を事業化したユーグレナ代表取締役社長の出雲充氏、ライフイズテック代表取締役CEOの水野雄介氏、「リアル脱出ゲーム」の考案者でSCRAP代表取締役の加藤隆生氏、メディアアーティストのライゾマティクス真鍋大度氏、「ドラゴン桜」や「宇宙兄弟」などの人気作品を生み出した編集者でコルク代表取締役の佐渡島庸平氏といった錚々たる顔ぶれが揃った。それぞれが大変興味深い内容の講演であったが、ここでは本サイトの趣旨である「モバイルIT」の観点から注目したい講演をいくつか抜粋して紹介する。なお、講演については一部を除き後日ユーストリームのアーカイブでも公開される予定なので、そちらもチェックしてほしい。

技術の“シンギュラリティ”が仕事を変えていく

日本における「インターネットの父」とも呼ばれる慶応義塾大学の村井教授は、近年のIT技術を巡る動向を具体的な事例とともに概説した。まず、議論の出発点となるのは70億人と1000億のデバイスとセンサがインターネットにつながる「インターネット前提社会」であり、CPUの処理能力やストレージの容量、ネットワークの通信速度などコンピュータ能力の加速度的増加と、それに伴うデジタルデータの爆発的な増加だ。ところが、その機器やデータを利活用するIT技術者が日本では米国の1/3、中国の1/2と絶対数が不足しているうえに、いまだに技術者がITサービス企業に偏っている問題点を指摘した。提示された資料によると、米国ではIT技術者の7割以上がITを専業としないユーザ企業に在籍しており(日本では24.8%)、テクノロジーとビジネスの分断が深刻だという。

 

「大学×テクノロジー」をテーマに、慶応義塾大学の村井純教授がテクノロジーの現在と未来を語った。「デジタルデータを使った新しい経営を目指す経営者が先進国で一番少ないのが日本」という問題点を指摘し、飛行機やロケットですらアマチュアが自ら作り上げる米国の例を紹介し、先端テクノロジーを主体的に使いこなすことの重要性を強調した。

さらに2045年という近い将来には人工知能が人類の能力を追い越す技術の“シンギュラリティ”(特異点)が訪れ、我々の雇用や労働環境などを大きく変えることになるという。そして、そうした時代状況においては主体的に最先端技術を用いる創造性が求められると語った。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)では未来に対応するための取り組みとしてデジタル・ファブリケーションを支援する「未来創造塾」の計画を進めており、一般入試についても2016年度の入学試験科目を「情報」と「小論文」のみにすることを紹介した。

タブレットは学校や教師の役割を再定義する

Evernoteやユーグレナなど先進的な企業とのコラボレーションによる特別授業で知られる中高一貫校、品川女子学院の酒井教諭は「学校現場 x IT」をテーマに同校のICT教育の実践を紹介した。同学院では女子生徒が「28歳の時に社会で活躍できるように」なるための「28 Project」を基本コンセプトとして掲げており、特別授業や生徒1人1台のiPad導入もその延長線上にあり機器の利用そのものが目的ではないことを述べた。

酒井教諭は、タブレットは従来型の教育に加えてコラボレーション(協働学習)やコミュニケーションによって問題解決能力を育成する「21世紀型スキル」を身につけるためのツールであると位置づける。これを生徒視点で言い換えれば「ひとりでやること」と「ともにやること」という2つの性質の異なる学習であり、「1つの図書館に匹敵する」タブレットはこれら両方を加速し、補完する効果があると語った。すでに学習のあり方に影響を及ぼしている実例として、オーストラリアの学校とのコラボ授業において教師が五大栄養素について教えなくても生徒が自分で勝手に情報を調べて持ってきたエピソードや、「iPadをダンスの練習に活用している」という生徒の声を紹介した。

品川女子学院の酒井春名教諭は「学校現場×ICT」をテーマに、「情報」授業でのiPad活用事例を紹介した。タブレットの利用も「生徒が28歳の時に社会で活躍できる」ようにする品川女子学院のプロジェクトの一環であると語る。

これらのことから、学校という現場はこれから「ともにやること」の場所を提供することが重視され、教師の役目もファシリテーションが重要になるとした。そのために教育業界で近年注目を集めているのが「アクティブラーニング」であり、同学院も来年度より推進部署の設置を決定したと発表した。

 

執筆者紹介

栗原亮@cooleyフリーランスの編集者兼ライターとして、アップル製品やデジタルブックに関する書籍などを執筆している。MacBookエア抱えて都内各所を飛び回る、なんちゃって「ノマド」ワーカー。