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『2015年、影響するテクノロジー』 Tigerspikeビジネスセミナーレポート【topics】

2月17日、Tigerspike(タイガースパイク/本社オーストラリア、シドニー市)東京オフィスにて、ビジネスセミナーが開催された。Tigerspikeは、消費者向け、および企業向けモバイルデバイスアプリを受託開発する企業。ビジネスアプリであっても、UX(ユーザーエクスペリエンス=ユーザー体験)が重要で、それが企業の労働生産性を向上させるという独自の視点が受け入れられ、現在、シドニー、メルボルン、シンガポール、ロンドン、サンフランシスコ、ニューヨーク、ドバイ、東京と世界8拠点を構えるまでに急成長している企業だ。

このビジネスセミナーでは、グローバルCEOのアレックス・バーク氏が来日し、プレゼンテーションを行った。その内容は「2015年、ビジネスに影響を及ぼすテクノロジー」というもので、大変興味深く、ビジネスヒントにも富むものだ。その内容をお伝えする。

5つのテクノロジーから2015年を紐解く

バーク氏が「2015年、影響するテクノロジー」として掲げたものは、次の5つ。

1.Enterprise Mobile First(企業のモバイル導入)
2.Contextual Technologies(文脈テクノロジー)
3.Cyber Security(サイバーセキュリティ)
4.Cashless Payment(キャッシュレス決済)
5.Wearable Technologies(ウェアラブル技術)

バーク氏は、この5つのテクノロジーは、旧来の業態を破壊するポテンシャルをもっているものであるという。旧来の業態を守りたい人にとっては「破壊されかねないテクノロジー」ということになる。そのため、このプレゼンテーションには「破壊するテクノロジー、破壊されるテクノロジー」という副題がついている。

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Tigerspike グローバルCEO アレックス・バーク氏

 

1)企業のモバイル導入

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企業のモバイル導入は、小さな投資で最大の効果をあげられる企業施策だという。スマートデバイスが急激な普及をする中で、従業員からも使い慣れたスマートフォンを業務に使いたいという要望が強まっている。また、企業側はスマートフォンを使うことで、従業員の生産性を上げ、情報共有をし、企業活動により積極的に参加してくれることを期待している。

しかし、企業には基幹システムなどをはじめとする既存のテクノロジーが存在し、新しいテクノロジーに簡単には移行できずに苦しんでいるところもある。そのためバーク氏は、いきなり全社導入するのではなく、小さなところから個別具体的に導入していくのがクレバーで、もっとも効果が上がる方法であると薦める。

例えば、あるセキュリティ企業は、600人の従業員数だが、離職率の高さに悩んでいた。年間40%もの人が辞めていくのだ。そこでスマートフォン用の小さなアプリを開発した。それは企業から従業員それぞれにメッセージを送るというシンプルなものだった。入社1日目には「がんばりましょう」、7日目には「上司との面談はすみましたか?」などというものだった。

たったこれだけのことで、1年で離職率は40%から20%に減少した。そして、離職率が減少したことにより、採用コストが減り、300万ドル(約3億円)もの経費が節約できた。

この「小さな個別の課題に取り組む」という方法は、きわめて成功率が高い。なぜなら、問題に対して焦点があてやすく、的確な解決策を講じることができるからだ。大きな包括的な課題を解決しようとすると、焦点がぼけ、複数の施策をとって、どれもが機能せず、無駄になるということになってしまう。また、個別の課題の解決は、スピーディーに行え、さらには投資額も少なくてすむのだ。

つまり、個別具体的な課題に取り組むことは、早く、安く、うまく対策を講じることができやすく、投資効果はきわめて大きい。

バーク氏は、まずこのような小さな課題を解決することで、モバイルでどのように課題を解決するかというを企業が学び、成功事例を積みあげていくことで、より大きな課題にチャレンジできるようになるのだという。

 

2)文脈テクノロジー

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文脈テクノロジーとは、デバイス上でユーザーがどのような操作をし、どのようなコンテンツを見ているかを把握する技術。さらに、今ではユーザーがどの場所にいるかも把握するようになっている。このようなユーザーの置かれた文脈に即して、さまざまな情報をプッシュしていくテクノロジーだ。

例えば、ロンドン、ロサンゼルスなど米英豪に124のショッピングモールを展開するウェストフィールドでは、顧客の導線を把握しようとする試みが始まっている。駐車場からの動き、どの店に入ったか、あるいはどの商品を手にとったかまでを把握し、類似商品のオファー、あるいは食事時間にレストラン情報のオファーなどをプッシュしようとするものだ。

ただし、プライバシー把握でもあり、顧客の中には拒否反応を示す人もいるだろう。バーク氏は、限定的なプライバシーを把握することで、それを超えると感じられる価値を顧客に提供できるかどうかが鍵になるという。

 

3)サイバーセキュリティ

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インターネットが高度化すればするほど、セキュリティリスクは高まっていく。さらに、インターネットシング(ネット接続された家電、車、ロボットなど)が普及するにつれ、リスクは等比級数的に高くなっていく。

さらに大きな問題が予防に対する意識が薄い点だ。ガートナーの調査によると、世界のCIO(情報最高責任者)の7割が、事故が起こったあとの事後対応しかできていないと回答しているという。バーク氏は、サイバーセキュリティもさまざまな保険と同じように事前に投資をし、予防に比重を置くという先手をとる必要があるという。その分野では、データの暗号化などやれること、やるべきことはたくさんあると考えているという。

 

4)キャッシュレス決済

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キャッシュレス決済については、昨年大きな変化があったとバーク氏は肌感覚で感じているという。決済の歴史は、過去、現金、カードと進化してきて、現在はクラウド決済に移ろうとしている。たとえば、ハイヤーサービスのウーバーは、アプリでハイヤーを呼ぶと、ユーザーの現在地まで迎えにきてくれる。事前に行き先を指定しておけば、乗る前に料金がわかるようになっていて、事前のユーザー登録、カード登録が必要だが、支払いはクラウド決済となる。つまり、タクシーの中では支払いという行為は必要なくなる。

バーク氏が感じている大きな変化とは、この「支払いという行為が必要なくなる」ということだ。この決済習慣が変わったということは、一般の人々がスマートフォンやクラウドといった新しいテクノロジーに対して、漠然とした不安をもたくなくなったということだ。

この決済行動の変化については、オーストラリアの大手スーパー、ウールワースがさまざまな試みをしている。ひとつはスキャン・アンド・ゴー。スーパーで商品をカゴに入れ、セルフレジでスキャンをするだけ。支払いはクラウド決済なので、支払い行動をせずに外にでることができる。もうひとつは、ビーコンを利用したもので、事前に必要な商品をスマートフォンで注文しておき、店内あるいは店舗近辺にいれば、商品の用意ができたことをスマートフォンに通知してくれる。これもクラウド決済なので、決済行動は不要だ。

この行動の変化が、購入行動にどのような影響を与えるのかはまだまだ未知数だが、こうした試みから新しい知見が得られてくるだろうとバーク氏は考えているという。

 

5)ウェアラブル技術

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ウェアラブルは、ヘルスケア領域で大きなチャンスがあるという。たとえば、企業の従業員の健康管理には大き助けとなる。さらに、ヘルスケア以外の領域にも応用が効く。すでにタイガースパイク・ニューヨークオフィスでは、ウェアラブルキーを試験的に導入しているという。ドアは常に施錠されているが、関係者がドア付近にいくだけで自動的に解錠されるというものだ。さらに、ホテル、オフィスビルなどでのエレベーター、ゲートなどのセキュリティにも応用できる。現在は、カードキーをエレベーターの挿入口に差しこむ、あるいはタッチする必要があるが、ウェアラブルキーをもっていない者が乗った場合は、エレベーターが動作しないなどということもできるのだ。

海外大手航空会社では、すでにAppleWatchの応用を考えているという。到着した空港で、荷物の引き取り場所の案内などをAppleWatchに表示させることを考えているという。

ロジックに基づくデザインが重要

バーク氏のプレゼン後、短い時間ではあったが、Tigerspikeとコラボレーションしてアプリ開発を行ったガリバーインターナショナルの坂口直樹氏、野村総合研究所の宮前英子氏が、開発したアプリの紹介をした。

ガリバーでは自動車の買取査定をするときに担当者が使うアプリ、野村総研では社内にUXの価値を理解してもらうためのパイロットプロジェクトが紹介された。

業務用アプリというと、プロが使うのだから高いデザイン性のUXは不要と考える人もいるが、それは大きな誤りであるというのが、両氏のプレゼンを通じてわかってくる。一般消費者向けのような気を引くためのデザイン、企業や商品のイメージを訴求するデザインというのは必要はないが、ひと目で判別ができ、入力しやすいデザインは必要になる。それだけ、作業ミスが減少し、作業効率があがるからだ。

また、一般にデザインは感覚領域のもので「おしゃれなデザイン」「いい感じのデザイン」という感情言語を使って開発されることもあるが、業務用のデザインはそうではなく、すべてのデザインにロジックが必要で、ロジックに基づくことで、デザインの妥当性が議論できるようになるというお話もあった。

このTigerspikeビジネスセミナーは、不定期で開催されている。参加は自由。次回開催日は未定だが、開催が決定し次第、TigerspikeのWebサイト(http://www.tigerspike.jp/)に告知される予定だ。

  

執筆者紹介

牧野武文#Follow テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。IT関連本を中心に、「玩具」「ゲーム」「論語」「文学」など、幅広くさまざまなジャンルの本を執筆。著書「Macの知恵の実」「横井軍平ゲーム館」「大失言」「萌えで読み解く名作文学案内」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」など。