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IBMが描くモバイルエンタープライズの未来_IBM InterConnect 2015【topics】

Photo:The kickoff for IBM InterConnect this week, by Dion Hinchcliffe CC BY-SA

 

2015年2月22日から2月26日までの5日間、ラスベガスで米IBM社最大のカンファレンス「InterConnect 2015」が開催された。世界各国から総勢2万1000名を越す参加者が集まる中、同社の考えるビジョン、最新のテクノロジー、先端事例の発表があった。

結論から言えば、IBM社は確実に、これまでよりも加速的に次世代のITによるビジネストランスフォーメーションに向けて準備を進めている、そんな印象を受けたカンファレンスであった。開催期間中3回に渡って発表された「General Session」においても、「ハイブリッドクラウド」「モバイル」「アナリティクス」「コグニティブコンピューティング」の4つを重要なテーマとし、これらのテクノロジーが従来のビジネスを破壊し、小さな企業が大企業のような市場を創造したり、大企業がダイナミックなイノベーションを実現するための強力な武器になることを強調していた。

では、それらのテクノロジーの発展において、「モバイル」が果たすべき役割はどこにあるのか、「Genaral Session」の内容に基づき、その動向を探ってみたい。

Photo:Yasuo Tezuka

モバイル活用のアイディア収集と、実現させる仕組みづくり

初日のGeneralSession「A New Way to Think」のCITIグループの事例は、とても印象的だった。Citiグループの顧客体験とデジタル戦略について責任を持つHeather Coxチーフ・マーケティング・オフィサーが登壇し、金融業界のデジタル化の中で直面するチャレンジとして、”新規参入者”と”顧客の期待値”を掲げた。

「銀行は必要とされていない。しかし、バンキングの機能は必要とされている。同業他社が比較対象ではなく、優れた顧客体験を提供している他業種との比較が必要」

このような状況で、デジタル変革を推し進めていくコンセプトとして、Unleash(発想の解放)、Develop(新サービスの開発)、Disrupt(従来型の破壊)を挙げた。
Citiグループの「Citi Mobile Challenge」は、これら3つのコンセプトを実現する取り組みで、全世界規模で開発者の自由な発想やアイディアを革新的なモバイルアプリーションの開発に活かそうとしている。

Photo:Yasuo Tezuka

これらのモバイルエンタープライズのアイデアを絵に描いた餅で終わらせないように、プロジェクトを支えているのが、IBMのBluemix(IBMのPaaS)だ。IBM Fellowでチーフ・テクニカル・オフィサーのJerry Cuomoは、同行の電子財布サービスと連携し「割り勘」機能が付いた「JoinPay」でその仕組みを紹介した。IBMが提供するハイブリッドクラウドの利点を活用することで、Bluemixとオンプレミスのバンキングシステムとの安全な接続やデータ交換を実現したり(IBM DataWorks、Secure Passport Gateway)、クラウドとオンプレミス間の可搬性によりデータに近いところでモバイルアプリケーションを動かす効率化が可能になる(IBM Enterprise Containers)。

基幹連携と外部データ(他のクラウドサービスなど)連携を実現するIBMの基盤を積極活用することで、これまで以上に優れたモバイルによる顧客体験を提供することが身近になったのである。

モバイルによるエンゲージメントの構築と、コグニティブ・コンピューティングの可能性

3日目のGeneral Session「A New Way Forward」では、資生堂のデモを交えたプレゼンテーションが会場の視線を集めていた。

資生堂は、現場のビューティー・コンサルタントが“おもてなし”の心を最大限に発揮できるように、新たな顧客エンゲージメントシステムへのチャレンジを紹介した。実際に、モバイル端末を使ってのメイク・アップ・シミュレーションのデモは、新たな顧客エンゲージメントであるという非常に説得力の高いものであり、印象的だった。モバイルだからこそ利用できる接客シーンがあり、シンプルで優れたUI/UXだからこそビューティー・コンサルタントが不安を持たずに積極的に使うことができる、そういったデモを目の当たりにした時、会場内は拍手で沸き上がった。

Photo:Yasuo Teduka

また、IBM Watson(IBMのDeepQAプロジェクト)の登場によりエンゲージメント構築の可能性が広がっている。Watsonに関するキーノートでは、具体的なデモンストレーションが行われた。単に「自転車」を検索すると2億件のヒットがあり、自転車が欲しいのか、レースに興味があるのか、近くの自転車クラブを探しているのか、さらに多くのクリックが必要になり、ほとんどの人が欲しい情報に辿り着けずに諦めてしまう。

Photo:Yasuo Tezuka

EyeQ社のソリューションでは、来店した顧客の年齢、性別、感情、購入履歴、さらにTwitter情報や店頭端末ビデオ視聴、参照する評価などからどういう自転車に興味があるかを Watson Personal Insightを使って判別し、提案する機能を備えている。

また、redant社の調査では、リテールショップ店員の57%が2時間以内のトレーニングしか受けておらず、43%の店員が顧客に間違った情報をガイドしていることがわかったと指摘。Watsonを活用することで、トレーニングのコストや時間を削減、顧客に対するサービスレベルを向上できることが実証された。

Watsonは、すでに13のCognitiveサービスをWatson Developer Cloud上で提供しており、6800名以上の開発者に活用され、すでにBluemix上で700ものアプリケーションが展開されているという。もちろん、Watsonが提供しているサービスを最大限活用できるのは、モバイルであることは疑う余地がない。

これらの事例から、顧客のビジネスを理解しソリューション提供を通じてともに歩んできたIBMだからこそ、提供できるテクノロジーがあると感じることができた。それは単純な知的好奇心からくるテクノロジーの進歩だけではない。顧客のビジネスを中心に考え、それを加速させるための武器としてテクノロジーを磨いてきた結果である。

そのために彼らは第3世代コンピューティング(学習するコンピューティング)へと移行する、そういう意志を感じることができた。次世代の顧客の武器になり得るのは、端末やソフトという閉ざされた「個別のシステム」で業務を処理するだけはなく、ハイブリッドクラウドやモバイル、予測的アナリティクスなど、「オープンでダイナミックなデータ」を活用した各現場における意思決定の支援なのだ。そのために、APIの整備やハイブリッドクラウドの構築、ビッグデータの解析、コグニティブ・コンピューティングの提供、セキュリティの確保など、集中的に投資をして確実に基盤を抑えているのであろう。

特に、モバイルエンタープライズの領域では、Apple社とのパートナーシップや企業向けハイブリッドクラウドの提供によるIBMの優位性は揺るぎないものであるが、それらの領域のみに留まらずIBMはあらゆるシステムと連携できるモバイルエンタープライズの未来を目指している。そして、カンファレンス中で発表された多くの事例からも、世界ではスタートアップ企業やベンチャー企業がIBMが提供するプラットフォームを活用することにより、多くの企業にモバイルエンタープライズの分野でイノベーションをもたらしていることがわかった。

今回のカンファレンスを通して、IBMが描くモバイルエンタープライズの未来では
①技術中心の考え方からビジネス中心の考え方へ
②現在のITの理解ではなく未来のITの追求へ
③正しいパートナーシップモデルの構築へ
という変革が重要であることを強く感じるとともに、我々としては提供された基盤を最大限活用し、破壊的なアイデアとスピード感を持ってモバイルエンタープライズの変革を進めなければならないと感じたカンファレンスだった。

執筆者紹介

手塚康夫/株式会社ジェナ代表取締役社長(@iphone_business)、岡村正太/同社執行役員