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教育と社会のマインドリセット「未来教育会議シンポジウム2015」レポート【topics】

未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を多様なマルチステークホルダーでともに考え、ともに豊かな現実を創造していくためのプロジェクト「未来教育会議」。3月7日、発足以降のプロジェクトの成果発表をメインとしたシンポジウムが、同実行委員会としても名を連ねる慶応義塾大学でに行われた。21世紀型教育とは何か、組織とは何か、地域の関わりは、教育環境格差をどう解決すればいいのかなど、およそ280名の参加者にとって「考え、行動へ移す」きっかけになったことは間違いない。

未来を幸せに生きる力とは

5時間に及んだシンポジウム。プログラムは3部に分かれ、1)2014年のアクションプランの活動報告、2)「つながりは、何を生みだすのだろうか」を共通のテーマとしたゲストスピーカー3名によるプレゼンテーション、3)それらをさらに深堀りするテーマ別セッションが計8つ用意され、参加者それぞれにとって「教育にどのように関われるか?」を自分に問いかける貴重な機会になった。各プログラムレポートはいずれ未来教育会議のWebサイトで公開されることと思うが、ここではGMBAの趣旨である「モバイルICT」の観点から注目した内容を抜粋して紹介する。

開会の代表あいさつを行った未来教育会議実行委員会代表の熊平美香氏は、「誰もが一生懸命なのに、子どもたちの主体性や創造性を開花することができない今の日本の教育システム」に対し、同プロジェクトが描く2030年の未来シナリオに基づいた、家庭、学校、地域、社会のつながりによる時代が求める教育のあり方を提示し、20世紀の社会(企業)のあり方から21世紀の社会のあり方にパラダイムがシフトしていることと同様、教育のあり方も画一性から「未来を幸せに生きる力」にシフトしていく必要性を説いた。

21世紀を生きる子どもたちに求められる力は、20世紀を生きた大人には求められなかった力であり、それに必要な力を育てるためのシステムは20世紀型の教育には存在しない。では「未来を幸せに生きる力」とは何か? OECD(経済協力開発機構)はこれを3つのカテゴリに分類し、「相互作用的に道具を用いる」「異質な集団で交流する」「自律的に活動する」を挙げている。現在、多くの学校ではそのどれもがまだ学ぶことはできない。

オランダ発「スティーブ・ジョブズ・スクール」

未来教育会議プロジェクトの進化ステップは、「人と知のつながり=土台」をつくり、「連続的なアクション」を起こし、「教育の仕組みのシフト」を推し進めることで、その第1ステップが2014年度の活動の中心になった。土台づくりには、マルチステークホルダーが教育について他責にせず、それぞれ主体的に考え、アクションが起こせる場の提供が必要になる。

実行委員会のプランはこうだ。大きく「個人サポーター」「法人パートナー」に活動を分類。個人サポーターの活動を「ワークショップ・コーディネーター」「未来教育ライター」に分け、コーディネーターにはそれぞれのコミュニティや組織内で、“未来教育ワークショップ” を主催してもらうために、ファシリテーター協会との協業で、子ども主役にした人と知をつなげるワークショップ研修を行った。ライターは国内外での教育に関する先駆的、挑戦的な取り組みなどをレポートする役目である。現在コーディネーターには50人、ライターには30人のメンバーがいるそうだ。レポートはWEBサイトで2週間に1度の連載形式で公開されている。

一方、法人パートナーは物的・人的リソースの支援はもとより、2014年度は、日本・オランダ・デンマークへのスタディツアーを行った。まずは企業・行政・NPO・研究者等でステークホルダーチームを組み、現状の課題共有ワークショップを実施。続いてオランダとデンマークを含む国内外40カ所のスタディツアーを行った。特にオランダとデンマークでは各10カ所の計20カ所を周り、リフレクション(内省力)教育で先駆的な両国の事例を学んだそうだ。

その中の1つ、オランダの「スティーブ・ジョブズ・スクール」をここでは紹介する。スタディツアーの詳細レポートはすでにWebサイトで公開されているのでぜひとも参照いただきたいが、少しオランダの教育の特徴を触れておく。

オランダは「百の学校があれば百の教育がある」といわれるほど世界でもっとも自由な教育制度を持ち、教育の自由(設立・理念・教育方法の自由、学校選択制)が憲法で保障されている。また、財政平等の原則があり、公立、私立ともに財政補助が平等に分配される(この分配は学校に所属する子どもの人数に応じて国から補助金が出る)。さらに、大網はオランダ教育文化科学省が決めるものの、各学校現場に大きな裁量があり、民間の教育サポートも充実している。ちなみに、200人生徒が集まれば学校が設立できるそうだ。

そんなオランダに「スティーブ・ジョブズ・スクール」がある。別にジョブズが基金を出して作ったとか、何かジョブズと縁があるわけではなく、「ICTと子ども中心の学校」をコンセプトに持った学校という理由で付けられたそうだ。4歳から12歳までの子どもが通う私立で、既成概念を取っ払ってゼロから探求しようという学校。現在の教育は2030年ではなく、1990年に戻る教育になっているのでは?という問題意識から、iPadを使うことでどういうことが可能になるのか?を実践で検証しているため、当然ながら授業はすべてiPadで行われる。

カリキュラムは、大学の授業のように、来週1週間の課題を子どもと親とで決める。関心を自分で選択することを幼い時期から身につけさせる教育方針のため、授業は必然ワークショップスタイルになっている。また、子どもの習熟度を掌握するためにもICTを活用しているため、先生側の負荷も減るそうだ。2013年8月の開校以来、すでに多くの実績を挙げているようで、同校のシステムを導入する学校は1年で22校に増えたという。

(The unique approach of the Steve JobsSchool in the Netherlands)The unique approach of the Steve JobsSchool in the Netherlands)

企業と子どもたちがともに未来を創る取り組み

第3部のテーマ別セッションでは、教育と探求社のプログラム「企業が教育に関わる意味ークエストエディケーションの取組からー」に参加したのでそのレポートを最後に記しておく。

クエストエディケーションとは、実在の企業からのミッションを題材に、1年をかけて探求するキャリア教育プログラム。具体的には、同プログラムに協賛している企業におけるインターンシップを、中学・高校の教室で学習するためのコースで、学生は、協賛企業の中から1社を選択し、インターンとして、フィールドワークやアンケート調査等の実務に取り組む。年間を通じたこのカリキュラムによって、学生は選択した企業の事業内容や社会における役割、企業文化などに触れるとともに、IT、文書作成などのスキルのほか、成果発表(プレゼンテーション)にむけた情報収集、チームでの協働などを実体験を通じて身につけられる。

実際の企業活動を体験することで、職業観・勤労観について自然と意識することができ、一方企業側にとっては、数年後にひょっとして一緒に働くかもしれない若者に対し、表面的ではない自社の存在価値を理解してもらえる可能性がある。現在、参加校は全国70校に及び、来年度は85校になるという。

当日は都立芦花高校の先生とクエストに取り組んだ学生たち、および協賛企業の1つである大和ハウス工業によるトークセッションが行われた。

クエストに対する学生の感想は「一歩踏み出せば面白いことが見つけられるかもしれないという積極性が出てきた」「問題も課題も出てくるけれど、ブレインストーミングを通じ、いろいろな角度からの意見が聞けたし、とにかく楽しかった」ととても前向きな意見が聞かれた。また先生からは「先生の役目はファシリテーター。信じて待つ。すると、いつの間にか生徒の成長がみるみる実感でき、また、関わっていたすべての人に、やがて感動が訪れる。そんな存在がクエストです」とべた褒めだった。

一方で、教科ありきの学習スタイルではなく、社会のどこで、何に使われているのかから子どもたちの興味・関心を引き出す教育がこのクエストにはあるわけだが、高校生ともなると、どうしても斜に構える生徒も一定数はいる。そんなときはどう対処するのか? 

「あるとき、やる気のないグループに対し、本気で叱ったことがあります。『インターンシップである以上、あなた達は社員です。社員であるからあえていいますが、君たちとはもう一緒に仕事をしたくない』と。」

その後、このグループがどう変わっていったかは想像に難くない。本気かどうかは生徒も見抜くはずだ。多感な中高生の時期に、本気で関わってくれる大人の姿勢は必ず記憶に残ることだろう。GMBAの主旨であるモバイルITからは離れてしまった感はあるが、道具が人を変えてくれるわけではないという意味では、学ぶことが多いクエストだと感じた。

 

執筆者

小林正明(GMBA編集部 編集長)_雑誌編集に従事する傍ら、2010年以降はもっぱら関心事がモバイルに移り、教育、ビジネス、医療におけるモバイルの先端事例を追う中で、「日本のモバイルITは、本来届くべきところに届いていない」ことを痛切に実感。日本に残された最後のチャンスはモバイル革命だと信じ、GMBAに参画する。