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スポーツアナリティクスの可能性。魅了するデータと勝利への施策【SAJ2015レポート】【topics】

12月19日、日本科学未来館にて一般社団法人日本スポーツアナリスト協会(以下JSAA)主催の「SAJ2015-スポーツアナリティクスジャパン2015-」が開催された。今年で2回目の開催となる。会場には約300人以上が来場し、スポーツアナリストとして活躍する登壇者たちの話に耳を傾けた。GMBAではいくつかの講演に注目してレポートする。

スポーツに新しい知性を

近年、スポーツでもビッグデータの活用が進んでいる。特殊なカメラで選手の動きをデータ化した「トッラキングデータ」を昨年の3月から正式にJリーグが採用したのは記憶に新しい。海外では以前より活用が進んでおり、NBAでは2013年よりトラッキングデータの一般公開をスタートさせている。しかしながら、選手の育成やチームの分析など、現場でデータが活用されている事例はまだまだ少ない。

「近年、テクノロジーの発展で今までとれなかったデータがとれるようになったり、トラッキング技術によって情報の量が膨大になってきています。やはり、現場がそのデータを活用できる知性が必要なのではないかなと思います。スポーツアナリティクスが活かせる知性をいかにスポーツ業界に根づかせるか。相手チームの研究をしたり、パフォーマンスの向上のために発展させていければと思います」

そう話すのは、日本バレーボール協会全日本シニア女子チームアナリストとして活躍するJSAA代表理事の渡辺啓太氏だ。

01日本バレーボール協会全日本シニア女子チームアナリスト JSAA代表理事 渡辺啓太氏

「私がスポーツアナリストとしてバレーボールに携わり始めたころ、試合中の選手の動きは控えの選手がビデオで撮影していました。今は、専属のチームがいるのでそんなことはしません。この恵まれた環境にとても危機感を私は覚えています。昔はそのビデオを何度も何度も巻き戻して見たいシーンを探しました。そこにニーズがあったんです。でも、今はニーズがなくても何もしなくても情報のシャワーを浴びることができます。だからこそ、スポーツアナリティクスの未来を考えたときに、知性というのをひとつのポイントにしていきたいと思います」

今回のSAJ2015のテーマは「スポーツアナリティクスが育む”知性<インテリジェンス>”」だ。今まで監督や選手たちの”経験や勘”で導き出してきたスポーツの勝敗にデータを活用していく。それには、膨大な知識と確かな知性が必要不可欠なのだ。

導入から1年。Jリーグのトラッキングデータ活用

先述した通り、Jリーグは2015明治安田生命J1リーグ全試合においてトラッキングシステムを導入した。「Jリーグ全体の競技力の向上」「試合中継、ニュース番組、Webコンテンツ等ファン・サポーター向けサービスの拡充」を目的としている。導入から1年、トラッキングデータ活用における成果と課題について、スカパー・ブロードキャスティング 制作本部 制作部 上原聖治氏、NewsPicks スポーツライター 木崎伸也氏、データスタジアム フットボール事業部 斎藤浩司氏、日本プロサッカーリーグ 事業・マーケティング本部 出井宏明氏がセッションを行った。

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Jリーグでは導入後トラッキングデータを「どのように伝えていくか」「どのように選手の強化に繋げていくか」を考え進めてきたという。現在Jリーグ公式サイトでは試合中リアルタイムで選手の位置やトップスピード、走行距離などが閲覧できる「LIVEトラッキング」や各データのランキングが用意されている。

「伝える、見せるという部分ではデータをいかに加工してサポーターのみなさまに楽しんでいただけるかというところがポイントです。ネット上でデータを公開していますが、これからもっと肉付けしていきたいですね。やり始めたばかりなので、サポーターの反応というのはまだまだですが、「代表から帰ってきたらこの選手、スプリント回数増えたよね」というような会話がちょっとずつ出てきてるかなと感じますね」(出井氏)

06日本プロサッカーリーグ 事業・マーケティング本部 出井宏明氏

また、スカパーでもデータを活用「今までとは変わった角度からの見方ができるようになったので、中継としてはいい味になっているかな」と上原氏は話した。

04スカパー・ブロードキャスティング 制作本部 制作部 上原聖治氏

ライターとして新しい切り口を探す木崎氏はFC東京のシュート数に少なさに注目したことがあるという。木崎氏は「なぜシュート数が少ないのに順位は上なのか」とFC東京の強さに迫った。

「聞き出すのに苦労しましたが、なぜこのシュート数になったのか監督は話してくれました。データでコミュニケーションすることで新しい知見が引き出されるなというのはすごく感じましたね」

07NewsPicks スポーツライター 木崎伸也氏

スポーツにおいて、サポーターをどれだけ魅了するかというのはどの競技も課題のひとつだろう。どう知ってもらうか、そして、その興味をどう持続させるか。データにはそういった面でも期待が大きい。データを採取しているデータスタジアムの斎藤氏は「現状とってるデータは個人の集計されたデータなので、チーム戦略的なデータを出してみたり、選手間の距離を出してみたり、戦術的なデータを提供したいですね。また、別のカテゴリーで、ユース世代のデータをとって、長期的に見ることで、日本サッカーの底上げに繋がればいいなと考えています」と、データの種類もさらに拡大させていく展望を話した。

08データスタジアム フットボール事業部 斎藤浩司氏

「まだまだ工夫の余地があると思う方が多いかと思います。我々も試行錯誤しながら施策を打っていっていますが、もしいいアイデアがあればお声がけいただきたい。伝える、見せるという部分もそうなんですが、これからは強化・育成という部分にももっと力を入れていきたいと考えております」

出井氏はセッションの締めに、より現場で活用されるように力を注いでいくつもりだと話した。サポーター1人ひとりがアナリストのように試合を観ることになる日は近いかもしれない。より深くサッカーを知る、そのひとつとしてデータが当たり前になっていくだろう。

あの勝利の舞台裏。日本ラグビー代表の"準備"

今年、ワールドカップで3勝という快挙を成し遂げ、日本中から注目を浴びることとなったラグビー日本代表。12月25日には、最も活躍したプロスポーツ選手に贈られる「日本プロスポーツ大賞」にラグビー日本代表が選ばられた。今回の活躍で日本ラグビー界に一気に火がついたことだろう。空港には約500人のファンが選手たちの帰国を迎えたという。

この快進撃の裏には、アナリストと選手、監督、コーチ、チーム全体での4年間の執念の”準備”があった。

「ベスト8を目指すことを決めた際に、日本独自のラグビーのスタイルをつくろとJAPAN WAYを掲げました。エディ監督には、”世界で最も準備されたチーム”を目指すように強く言われました。フィジカルで世界1になれない、スピードでもなれない。ならば、準備というところで世界1を目指そう。そこに対してスタッフがしっかりと取り組んで、ワールドカップに向けて進んでいこうという形でチームはスタートしていきました」

そう話すのは、日本ラグビーフットボール協会 日本代表チームアナリスト 中島正太氏だ。中島氏は南アフリカ戦を例にあげ、その準備方法について解説した。エディJAPANのコーチの構成はアシスタントコーチが4名、その上にエディ監督がおり、「アタック」「ディフェンス」「スクラム」といったように各コーチへ明確な役割と責任が与えられる。中島氏はアナリストとして、各コーチごとに準備のサポートをしていった。

エディ監督はiPadに全世界の試合映像を入れ「国家斉唱」から「ハーフタイムのインタビュー内容」、「試合時の選手の振る舞い」「試合後のリアクション」まで隅々まで見て、勝つための対策を考え、中島氏に情報をリクエストするという。南アフリカの際は「試合中に南アフリカにとられず日本がどうエリアを得るか」ということに加え、天気やレフリーの情報もリクエストしてきたという。

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中島氏は「試合中にこのレフリーが選手にどういったアプローチをしたのか」「どういったジャッチメントをしたのか」というのを調べ、その情報を渡す。天気に関してはWeathernewsに協力してもらい、基本的に朝と夜、試合会場周辺の天気の情報をメールでもらっていた。試合前日にはスタジアムに入り、天候、風、風の向き、湿度が予報と合っているかを照らし合わせ、それをフィードバックし、試合当日の天候予測に反映させていた。

トレーニングにおいても、ドローンを飛ばすなどして、選手の動きを撮影し、そのデータを練習後5分以内に各コーチに渡すのだ。クラウドにあげることによって、選手もすぐにその動画を見られるようにもしていた。

さらに、ラグビー日本代表チームには効率よくトレーニングや情報を共有するために4年かけてつくった「Play Book」というものがある。選手1人ひとりがiPadを持っているので、iBooksを活用し、選手達が戦術を理解しやすいように動画を埋め込んだり、日本代表が持ち得るキーワードをまとめていった。

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「準備のところでアナリストの力を最大限発揮できました。アナリストの役割というのは、この準備に対して、どのようなクオリティのものができるのか。コーチのリクエストに対して、どのような質で応えられるのかということが非常に大事なことなんだなと思っております」

03日本ラグビーフットボール協会 日本代表チームアナリスト 中島正太氏

そう話す中島氏はアナリストとしての自信と誇りに満ちているように見えた。データをどう活用していくのかというのは、スポーツ業界だけでなく、あらゆる業界での課題だろう。データはデータでしかない。どんなにテクノロジーが発展したとしても、その技術やデータが活かされるかどうかは使い手の裁量に委ねられている。「アナリスト」という存在の重要性について、その可能性について、JSAAの活動に注目していきたい。

執筆者

鎌田智春(GMBA編集部 編集者)_Webデザインの雑誌に携わり、GMBAに参加。一応、デジタルネイティブ世代でPCやタブレットに抵抗はなく、アプリやサービスもとりあえず試してみるタイプ。生活の一部になったモバイルについて本当に最大限その力を活かせているのか、本人もまだ模索中。