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日本市場はガラパゴス化?パーソナルモビリティに取り組む内外企業の思惑【後編】【topics】

公道走行に関する規制緩和は遅々として進まないものの、日本の自動車メーカーも長年にわたり一人乗り移動機器(パーソナルモビリティ、以下:PM)の開発に取り組んでいる。トヨタ自動車と本田技研工業が目指すのは、人間が活動する空間に調和するPMの商品化。両社がロボット開発のノウハウをPMに活用している点にも注目だ。市場投入の時期について確たる方針は聞けなかったものの、2020年の東京オリンピックまでには、日本製PMを世界に向けて発信したいというのが両社に共通する思いのようだ。

パートナーロボット部でPMを開発するトヨタ

トヨタが開発しているPMの「ウィングレット」は、セグウェイと同じく倒立振子制御でバランスをとる。ウィングレットは移動支援ロボットという位置づけで、同社のパートナーロボット部が開発を担う。トヨタがウィングレットで狙うのは、歩行空間における人との調和だ。

ウィングレットにはベーシックなロングタイプ(写真右)とスポーティなショートタイプがある

ウィングレットの幅は肩幅サイズで、乗車時に足を置くボード部分の面積も人が立っている時と同じくらいに設計してある。タイヤが小さいためセグウェイのようなオフロード走行は難しいが、その分だけ乗る人の目線は低く抑えられる。展開先は大型施設の中や屋外などを想定。トヨタでは事故防止・渋滞緩和の観点から歩車分離が進んでいくとみており、歩行空間が広がればウィングレットの走行可能スペースも拡大していくものと考えているようだ。

■ウィングレットの仕様

  • 高さ:116.7cm
  • 幅:49.6cm
  • 巡航速度:時速6km
  • 航続距離:約4.5km
購入できないのが不思議なくらいの完成度

トヨタがウィングレットのコンセプトモデルを発表したのは2008年のこと。現在は開発段階の製品だが、愛知県の「豊田市パーソナルモビリティ実験特区」では通勤手段としての利用などを想定した実証実験を実施中。東京・江東区にあるトヨタのショールーム「メガウェブ」では一般向けに試乗の機会を提供している。

実際に乗ってみると、体重移動によるウィングレットの動作はスムーズで、ゲーム形式の試乗を終える頃には小刻みなターンもこなせるくらいに運転が上達していた。実機の完成度は高く、本来であれば市場に出回っていても不思議ではないレベルの乗り物だと感じたが、PMの公道走行が不可能な日本市場では需要が見通せず、トヨタとしても発売の決断を下すには至っていないようだ。

トヨタ パートナーロボット部 モビリティプロジェクト モビリティグループ 主幹の覚知氏(写真左)

発売の見通しが立たない製品をトヨタが開発し続けるのはなぜか。ウィングレットの開発を手掛けるトヨタの覚知誠氏は、ウィングレットが社会を豊かにする製品だという信念が開発を続ける理由だと説明した。トヨタではウィングレットを既存の乗り物に代わる存在と捉えず、まったく新しいモビリティと位置づけてさまざまな利用シーンを探っている。市場投入を決めた場合は、一般消費者向けと企業・団体向けの双方で販売が可能とみる。トヨタはウィングレットとロボットの融合も視野に入れている模様。覚知氏は「(パートナーロボット部で保有する)要素技術は豊富にあるので、何を落とし込んでいくか考えたい」と語った。ウィングレットの普及に向けては、シェアリングの活用も有効な手段と見ている。

メガウェブで見たシェアリングの事業モデル

トヨタは実際に、メガウェブでウィングレットのシェアリングを試している。ウィングレットに試乗し、インストラクターによる講習を受けた人にICカード(パス)を発行するシステムで、パスの保有者はメガウェブ内のステーションでウィングレットを借りることができる。取得時にテストを通過する必要があるため、パスはウィングレットの運転に慣れた人にしか出回らない仕組みとなっている。この方法でウィングレットのシェアリング事業を展開すれば、素人が運転することで起こりうる事故のリスクは低減できそうだ。

人との親和性を追求するホンダ

人がいる空間との親和性を徹底的に追求し、ホンダが世に問うPMが「ユニカブ」だ。ASIMOを手掛けるホンダは、ロボットのバランス制御技術を応用してPMを開発している。ユニカブは座って乗るのが特徴で、当然ながら乗車時の目線は椅子に座っているのと同じくらい低い。機体は肩幅に収まる寸法で、少しくらい込み合う場所でユニカブに乗っても、歩行者の足を踏む危険性はほとんどなさそうにみえる。歩行者にぶつかりそうになった場合は、足を着くことですぐに走行を止めることが可能だ。ハンドルを握る必要がないため、例えばユニカブに乗ったまま写真を撮るといったような場面も想像しやすい。

カブ(写真奥)の親しみやすさにあやかったネーミングのユニカブ。ペンギンに例えられるポップなデザインも特徴だ

ユニカブは前輪(主輪)にホンダ独自技術の全方位駆動車輪機構(Honda Omni Traction System)を搭載している。横方向の小さなタイヤを数珠繋ぎにし、縦方向の大きなタイヤを形づくるような技術で、この前輪と旋回用の後輪のレイアウトにより、ユニカブは前後、横、斜めのあらゆる方向に移動できる。

■ユニカブの仕様

  • 高さ:74.5cm
  • 幅:34.5cm
  • 最高速度:時速6km
  • 航続距離:6km

実際に乗ってみると、上体を傾けるか傾けないかの時点で思い通りの方向に動き出すユニカブの動作にまずは驚いた。直感的に走行できるため、狭い所も意のままに通り抜けられた。いつでも足を着いて止まることができるユニカブの安心感も特筆すべきで、乗車時に怖さは一切感じなかった。

屋外を含むさまざまな利用シーンを想定

ユニカブの原型となったのは、1989年のホンダ社内イベント(アイデアコンテスト)に登場したPM。このアイデアをきっかけにホンダは開発を進め、2011年にはユニカブのプロトタイプを公開した。2015年1月現在、ユニカブのステータスはテストマーケティング段階に入っている。ホンダではユニカブの利用シーンや需要を見極める一方で、さまざまな事業者から意見を募り、改善点の洗い出しや新機能の検討も同時に進めている。ユニカブの導入先としては、空港や大型ショッピングモールなどを想定。屋外での使用にも対応する方針だが、法規制の関係上、現時点ではユニカブも日本の公道を走行することができない。

ホンダ 四輪事業本部 事業企画統括部 スマートコミュニティ企画室 ビジネス開発ブロックの福里氏

ユニカブの市場投入の時期は決まっていないが、ホンダでユニカブに取り組む福里有陽氏は、2020年の東京オリンピックまでには日本製PMを世界に向けて発信したいとの考えを示した。販売先としては一般向けも含めて検討していく。ホンダがユニカブで狙うのは、自動車や二輪車といった既存の乗り物とは違う新たな市場の開拓だ。

燃料電池車を中心とするエコシステムの一部として提案

ユニカブを世界に提示する方法の1つとして、ホンダは燃料電池車を中心とするエコシステムにユニカブを組み込む道を探っている。燃料電池車が水素と酸素から作り出した電気をユニカブに給電し、ユニカブを「ラストワンマイルを埋める」(福里氏)乗り物として使うような考え方だ。ホンダは2015年12月、フランスのパリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の関連行事でブースを出展。ユニカブを組み込んだエコシステムの展示を行ったところ、反応は上々だったという。ユニカブの海外展開についても、今後は積極的に検討していく方針だ。

ユニカブの使い方に様々なアイデア

ホンダはユニカブとITの連携を見越して、ネット接続で広がるユニカブの様々な利用シーンについて考えを巡らせている。例えば展示会や大型ショッピングモールでは、ユニカブに推奨ルートを送ることで乗り手の移動をサポートする案や、ユニカブの軌跡(動線)をビッグデータとして収集し、展示会の出展者やショッピングモールのテナントに情報を活用してもらうといった使い方を想定。空港での展開としては、あらかじめユニカブに搭乗時間をセットすることで、乗り手が飛行機に遅れないようサポートする仕組みも実装可能とみる。

ユニカブと自動運転の組み合わせにも多くの可能性がありそうだ。任意の場所でユニカブを呼び出すことができれば、最寄駅と自宅の往復などにユニカブを利用するユーザーが出てくるかもしれない。シェアリングで利用する場合も、乗り捨てたユニカブが自動運転でステーションに戻れば便利だ。

日本製PMの将来を左右する規制緩和の行方

ウィングレットもユニカブも完成度は高いが、公道走行解禁の見通しが立たない日本では、市場投入の是非を検討するのも難しいというのがメーカー側の実情だろう。日本企業が市場投入をためらっている間に、海外勢によるPM関連のイノベーションが急速に進んでしまえば、日本のPM市場がガラパゴス化したり、日本製PMが陳腐化してしまったりする危険性も高まる。日本でPMが流行るかどうかは未知数だが、メーカーには海外での先行販売も含めた事業展開を期待したいところだ。

 

Author:マイナビニュース