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ソフトバンクの「Pepper」が法人市場開拓を加速させるための鍵とは【topics】

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ソフトバンクとソフトバンクロボティクスは1月下旬に、人型ロボット「Pepper」の法人活用に向けたイベント「Pepper World 2016」を開催した。コミュニケーション型のロボットに関する取り組みにはまだ課題も多いが、それでもなお、ソフトバンクが大規模なイベントを実施してまで、Pepperのビジネス利用拡大に大きく舵を切っているのはなぜなのだろうか。

500社以上の企業に導入された「Pepper」の最新事情

人の感情を認識したり、自ら感情を持つロボットとして、昨年6月20日に発売されたPepper。毎月1000台の販売分をすぐ売り切ってしまうなど、その人気と注目度は現在も続いているようだ。しかしながら毎月数万円かかるとされる維持費を考慮すると、いくら最新の技術を詰め込んだロボットとはいえ、個人で購入し、利用するには非常に大きなハードルがあるのも事実である。

そうしたことからPepperは、現在のところ法人向けの導入が多くなされているものと考えられる。1月27日のPepper World 2016開催前に実施された記者説明会においても、Pepperを導入している企業が既に500社を超えていることが説明された。中でも銀行や信用金庫へは、すでに37の導入実績があるとのことで、非常に引き合いが多いことをうかがわせる。

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Pepperは全国37の銀行や信用金庫に導入されるなど、さまざまな企業で活用されている。 

では、Pepperが具体的に担当する業務はどのようなものになるのかというと、人型で、かつ顧客と会話ができるという特徴を活かした、接客業務が主となるようだ。Pepperには会話機能に加え、胸部にタッチ操作可能なディスプレイが搭載されている。そこでこれらを活用し、声で直接話しかけたり、ディスプレイ上で操作させたりすることによって、コミュニケーションを図りながら顧客が求めている要素を聞き出し、アドバイスできることが大きなメリットとなる。

しかもPepperは顔認証機能を備え、さらにクラウドに接続していることから接客データの収集・蓄積も自動的に行える。それゆえ、どのような属性の人が、どのような要望を述べ、どのように接客したかという情報を逐一収集し、“見える化”ができる。それをさまざまな業務改善や商品開発などに活かしていけるのが、企業にとっては最大のメリットとなるようだ。

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Pepperは会話機能とタッチパネルを活用した接客に活用されており、接客情報を逐一記録してデータの“見える化”が行えることが大きなメリットとなる。

もっとも現在のところ、Pepperが法人で活用されているといっても、そこに期待されている要素の多くは、外観や会話ができる点などを生かした集客、いわば“客寄せパンダ”としての活用が主であることもまた事実だ。会話能力も人間と同じといえるほどではないし、手では極めて軽いものしか持つことができないなど、ハード的にいくつかの制約もあるためできることには限界はある。

また、Pepper World 2016の展示を見ても、未来のPepperの活用シーン紹介に多くのスペースが割かれており、現在の企業導入事例に関する展示はあまり多くない印象を受けたのも事実だ。それだけに、発売から1年に満たないこのタイミングで、あえて大規模なイベントを実施してまでPepperの法人向け販売拡大に踏み切るのには、やや早計な印象も受ける。

では、ソフトバンク側がこのタイミングでPepperの販売強化に踏み切ったのにはどのような要因が働いているのだろうか。1つ考えられるのは、生産体制が整い生産台数を増やせるようになったことから販売も拡大の必要があることであろう。だがもう1つ考えられるのは、Pepper用アプリの開発者が揃ってきたことではないだろうか。

ソフトバンクはスマートフォンでの体験を受け、Pepperの活用を広げるための要素として、アプリの活用に大きな期待を寄せているようだ。スマートフォンでもさまざまなアプリが提供されたことで、その利活用の幅が大きく広がったことが大きな成功要因となっている。それゆえソフトバンクは、Pepperでもアプリマーケットを提供し、開発者向けイベントを積極的に開くなどして、アプリ開発者を増やすことに力を入れているのだ。

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Pepperはアプリによってさまざまな用途に活用でき、アプリを簡単に開発できる専用のツールも提供されている。
アプリの充実により「Pepper」の活用シーンは広がるのか

そうした努力もありアプリ開発者がある程度揃ってきたが、現状のPepperでは、スマートフォンのように個人向けにアプリを販売して収益をもたらすことは難しい。そこでPepperの普及台数を増やし、受託開発などで開発者に確実な収益をもたらす上でも、ニーズの大きい法人向けの販売拡大に力を入れる必要があったと見ることができそうだ。

だが、企業としてもPepperの導入に不要なコストをかけたくないというのが実際のところであろう。では企業がPepperの導入を判断する上で、ソフトバンクに求められているのは何か? といえば、やはりキャラクターによる集客効果以外で“実績”を見せることになるのではないだろうか。今回のPepper World 2016を見ても、将来性は知ることができても現在の実績はあまり知ることができなかっただけに、今後はいかにPepperで多くの実績を作り上げ、事例を多く見せられるかが求められる。

中でも注目されるのはソフトバンク自身、すなわち同社の携帯電話ショップ「ソフトバンクショップ」での実績だ。ソフトバンクは、これまで一部店舗で試験的に導入してきたソフトバンクショップでのPepperによる接客を、今後全国の店舗に広げるとしている。このソフトバンクショップでのPepper活用で、どの程度売上の拡大やコスト削減につなげられたのかが、他の企業が導入を検討する上で重要な指標となってくるだろう。

ソフトバンクはiPhoneやiPadの法人導入に際しても、自らデバイスを業務に活用し、実績を見せることで販売拡大につなげてきた。それだけに、自らPepperを活用してどれだけの実績を作り上げることができるかが、今後のPepperの法人市場開拓における大きなポイントとなってくるのではないかと感じている。

ちなみにソフトバンクは、東京・表参道に3月28日より、1週間の期間限定で、契約など一部を除いて、Pepperだけで受付や接客業務をこなす「Pepperだらけの携帯ショップ」を展開すると発表している。この取り組み自体は、期間の短さもあってプロモーションの意味合いが強い印象も受ける。だがこうした取り組みによってPepperを積極的に活用し、確実な実績を積み上げることが、Pepperの“客寄せ”からの脱却には求められているのだ。

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ソフトバンクは3月28日より、1週間限定で「Pepperだらけの携帯ショップ」を展開するとのこと。

 

AUTHOR

佐野正弘/福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。